ペルーに着くまで、さんざん治安を心配していた僕とは裏腹に、家内は落ち着いたもの。
僕がいない時に、ガイドのステファニーさんと、
「ご主人、心配性ですね」
「脚本を書く仕事をしているので、いったんスイッチが入ると想像が止まらなくなって心配になるみたいですよ」
という会話をしていたようです。
確かに、悪い想像というか妄想が止まらなくなってしまい、自分でも辟易することがあるのは事実です。
物語を考える仕事上、何かをきっかけにしてどんどん想像を膨らませていくという頭の中の回路を常にオンにしているので、それが悪い方向に向かうとそうなるんだろうなと思うのですが。一種の職業病かもしれません。
さて、リマでもう一泊したあとはクスコへ行きます。
飛行機で一時間くらい。インカ帝国の都があった場所です。
ステファニーさんとは一時お別れ。
現地ガイドはアルベルトさんというクスコ出身の男性になります。
クスコは標高3400メートルの山の上にある町。高山病対策のために、ホテルに入って2時間は何もせずに体を休ませろと、注意を受けました。
大きく深く呼吸をして、動くときはゆっくり動けとも。
空気が薄いので、脳に酸素が回らなくなるのですね。そうすると頭痛やめまいがする。気分が悪くなったら、足をあげて寝ると頭に血が回るらしいです。
ここで体を慣らしておけば、マチュピチュは標高2000メートルくらいなのでグッと体が楽になるらしいのです。
ホテルは、かつてインカ帝国を滅ぼしたピサロの官邸だったというもの。趣があって落ち着いた建物でした。
そのロビーで出迎えてくれたのがコカ茶。コカの葉を煮出したお茶です。
これが実に美味しいし効くのですね。
クスコに到着して最初は「息苦しいな」と思っていたのですが、ロビーでコカ茶を飲むと、身体の中に何かが染み渡るようで、気分がすっきりとする。
いや、やばいですよ。コカ茶。
高地のホテルのロビーにはコカ茶が置かれていて、自由に飲めるようになっているので、とりあえずホテルに帰ったらまず一杯という感じで癖になる。
さすがはコカインの元です。コカ茶自体も国外への持ち出しが禁止されているのがよくわかります。
昔の人は、よくこんな葉っぱに覚醒成分があるなんて気づきましたね。高地で生きる人々の知恵だと痛感しました。
コカ茶と、部屋で休んで身体を慣らし、深く呼吸をすることを心がけていたおかげで、クスコでは高山病にならずにすみました。
でも、現地の人はさすがですね。
日本だと富士山の頂上に近い場所で、子供達はサッカーしている。
ボール一つでできるので、サッカーが人気なんだとか。
リマとは違い、治安も普通。手荷物に気をつけろというのも、海外なら普通に注意するレベル。夜、観光客だけで出歩いても、繁華街なら問題ない感じでした。
そして翌日、いよいよマチュピチュに向かいます。
クスコからオリャンタイタンボ駅まで車で2時間ほど。そこから鉄道で約1時間半でマチュピチュ駅に。さらにここから登山バスで30分ほど登るとマチュピチュ遺跡に到着します。
標高は2400メートルくらい。クスコで高地に身体を慣らしてからくると、2000メートル台の場所は、平地と同じくらい楽です。
まず、遺跡の入り口にあるサンクチュアリ・ロッジで昼食をとったのですが、ここでガイドのアルベルトさんから思いもかけない言葉が出ました。
バイキング形式なので席を確保したあとは、家内が荷物を見て僕が食事をとってこようとすると、アルベルトさんが、
「荷物は置きっぱなしでも大丈夫ですから、お二人一緒に取ってきて下さい」
思わず耳を疑いました。
ここ、ペルーでしょ? 日本じゃないよね。
世界中どこに行っても、荷物は置きっぱなしにするな。置きっぱなしで取られないのは日本だけだと言われ続けてきました。
パリだろうがローマだろうがバルセロナだろうが、どこも一緒です。
それが、僕が一晩飛行機で治安を心配し続けたペルーで「荷物置きっぱなしでOK」だって?
ペルーは相当観光に力を入れているのでしょうね。だから、観光地の治安にはかなり気をつかっているのではないか。結果的に、マチュピチュなどでは不審な人物を排除するシステムが出来ているのではないかとも思いましたね。
実際、マチュピチュ遺跡に入場するのにもチケットと同時にパスポートの提示が必要です。ホテルのチェックインも、パスポートと一緒に入国時にもらった出国カードがいるのですね。
観光客であることの証明というのが、ペルーでは大事なんだなと思いました。
そして、いよいよマチュピチュ遺跡に入ります。