早稲田大学国際教養学部の池田清彦教授は、昨年成立した特定秘密保護法を憂えて、「独裁国家を目指すなら、日本の未来は悲惨だ」と言い切った。
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安倍政権が何を目論んでいるのか、私には今一つ理解できない。TPPに加わってグローバリゼーションを推進することと、特定秘密保護法や憲法改悪で、国粋主義的な政策を進めることは本質的に矛盾しているからだ。グローバリゼーションを進めて、日本国民を多国籍企業の奴隷にしたいのか、それとも美しい日本国を守る奴隷にしたいのか。いずれにしても、国民を奴隷にしたいことだけは確かなようだ。もしかしたら、美しい日本国を守る奴隷と、アメリカと日本の多国籍企業の奴隷は同義なのかもしれないけどね。
欧州のメディアは、特定秘密保護法が成立する前から、この反民主主義的な法律に批判的であった。たとえば、イギリスのリベラル寄りの大手新聞・ガーディアン紙は、特定秘密の定義が曖昧であり、原子炉の安全性などの重要な情報が隠蔽される恐れを指摘している。国連人権高等弁務官のナヴィ・ビレイは、世論における議論がほとんどないまま法案採決を強行した日本政府を非難し、国境なき記者団による、日本の報道の自由指数は179ヶ国のうち、2012年の22位から2013年は53位に落ちた。
アメリカのメディアでもこの法律の評判は甚だ悪い。2013年12月16日付のニューヨーク・タイムズは社説で「ジャパンズ デンジャラス アナクロニズム(日本の危険な時代錯誤)」と題して最大級の非難を安倍に浴びせた。世界は日本が民主主義を標榜する国家群から離脱して独裁国家に陥るのではないかと懸念しているのである。
外務省が2013年7月から8月にアメリカで行った調査では、アメリカの世論は「日米安保を維持すべき」が前年と比べ22ポイント急減して67%になり、これはこの質問が設けられた1996年以後の最低だったという。さらに衝撃的なのは、アジアにおける「重要パートナー」の第1位は中国で日本は2位に転落したことだ。特定秘密保護法は、アメリカに倣って国家安全保障会議を使って、アメリカと共有する国家機密を保護するために、ワシントンからの圧力により作らされたとも言われるが、アメリカの世論は徐々に日本を見捨て始めたようで、日本はアメリカの安全保障のために働かされても、アメリカはいざとなった時、日本を見捨てるかもしれない。そうなった時、特定秘密保護法は、時の権力の独裁を強化する、独裁権力保護法に転化するに違いない。独裁国家の民が幸せになった例はないから、日本国民の未来は悲惨なことになるだろう。
※週刊朝日 2014年1月24日号