作家の室井佑月氏は先週の自身のコラムに対し、このように反省している。

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 先週このコラムに、脱原発をくり返し訴える小泉元首相は、案外フェアなんじゃないか、という話を書いた。

 いろんな業界の人々から「かつて自分も原発を推進したのに、無責任である」、そう批判されても、小泉さんは動じなかった。なぜご自分の考えが変わったのかを、くり返し説明した。そんな小泉さんを見て、(きっと、ご自分の道徳心に則っての行動であるのだな)とあたしは思った。だが、それは甘かったのだろうか。

 同業の友人にその話をしたら、「あんたアホだね」といわれた。

 あたしをアホだと罵った友人は、思想家の内田樹さんのツイッターを読め、と教えてくれた。

 で、さっそく読んでみた。そこにはこんなことが書かれていた。

「今の問題は『最終処理場があるのか、ないのか』だけに縮減されました。―中略―それまでの原子力行政のすべての失態と犯罪的行為についてはさらりとスルー。『処理場がある』なら原発再稼働を阻害する理由は何もない、という話になります」
「安倍自民党のアイディアは、小泉反原発をレバレッジにして原発問題を『ゴミ捨て場の有無』に縮減し、『捨てる場はある、だから原発再稼働に問題はない』という結論に世論を誘導することだと僕には思えます」

 怖えーっ。たしかに、たしかに、小泉さんは脱原発発言で「高レベル放射性廃棄物の最終処分場もないのに」とくり返しいっている。

 内田さんは、「フィンランドに行くまで放射性物質の処理の技術的困難さについて『知らなかった』政治家が日本の原子力行政のトップにいたという話を信じる人がいることが僕には信じられません」とも書いていた。……すみません、あたしは信じてしまいました。アホです、アホ。

 でもさ、あたしみたいな人は結構、多いんじゃないか? 11月12日付の朝日新聞の世論調査によると、小泉さんが政府や自民党に対し「原発ゼロ」を主張していることについて、支持している人は60%もいたらしいから。

 その60%の人々は、最終処分場の場所が決まったら、「じゃ、原発使ってもいいか」となるかしら?

 だって、地震大国の日本に安全な場所などないんじゃなかったっけ? というか、今の世の中で安全にできる技術はないんだよね。

 でも、そういう疑問はたやすくかき消されてしまうのかもしれない。

 JOCの竹田恒和会長はブエノスアイレスで開いた記者会見で、「福島とは離れている。東京は安全だ」と発言した。「福島とは250キロ離れている」とも。

 このことについて、「東京が安全ならいいのか」「差別的だ」と批判の声が上がったが、2020年の東京オリンピックが決まって、その声はかき消された。

週刊朝日  2013年12月13日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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