地方医療の問題をテーマにした海堂尊さんの小説『極北ラプソディ』(朝日新聞出版刊)が文庫になったのを機に、作家で医師の海堂さんとジャーナリストの津田大介さんが医療の仕組みについて対談を行った。
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海堂:僕は日本の医療制度をドラスチックに変える必要はまったくないと思っているんです。なぜなら、日本の医療は世界ナンバーワンだと思っているから。
津田:ナンバーワンだけど、地域医療は疲弊している?
海堂:素晴らしい医療だからこそ、医療従事者が疲弊するんです。サービスがいいから。
津田:ああ、ベタに言えば医師個人の使命感みたいなものを利用していると。
海堂:あれもやれ、これもやれって、コンビニみたいな対応を求められたら疲弊するでしょう。個人商店がコンビニに変わったら潰れるようなもので、最近、地域医療が潰れているのは当然だということです。いいものを守りたいならサポートしなきゃいけない。
津田:国からのサポートがない状態なんですね。
海堂:ないですね。
津田:地域医療が復活していくために一番必要な要素は何だと思われますか。
海堂:まずは元の状態に戻すという概念を捨てること。
津田:一番よかったころの環境には戻らないと。
海堂:それは不可能ですから。大きなビルを壊して小さな掘っ立て小屋をつくるというメンタリティーを受け入れること。人は減っているんだから、集約化はどうしても必要ですよ。たとえば県に外科医が5人しかいないとしたら、地区ごとに1人分配するよりは、1カ所に5人集めて手術をする。そうすれば外科医もちゃんと週休2日にできる。
津田:山奥にいる人はドクターヘリを使えと。
海堂:ええ。そういう形にして再生していくしかない。でも崩壊、崩壊といいますが、外国に行って医療制度を見ると、患者さんは日本より費用がかさんでもっと大変ですよ。
津田:アメリカはすごく診療費がかかりますからね。
海堂:それで市民が泣いているのに、厚生省はTPPで追随しようとしているから、ばかじゃないかと思いますけど。医療保健もTPPに入っていて医師会はずっとワーニングを発しているけど、メディアはあまり取り上げようとしません。もしTPPに参加したら、メリットを受ける人もいるけど、大半の人はものすごいデメリットを受けると思う。
※週刊朝日 2013年12月6日号