『チームバチスタの栄光』など医療問題を作品で描いてきた作家・海堂尊さん、ウェブの世界を中心に活躍するジャーナリスト・津田大介さん。立場は違えど、既得権益や組織に対して、歯に衣着せぬ提言をしてきた二人だ。医療の置かれた状況やインターネットの存在について語り合った。

*  *  *

津田:地域医療の厳しい現場みたいなものが注目され始めて10年ぐらいだと思いますが、海堂さんが医師の立場で問題意識を持ったのはいつごろですか。

海堂:今のような地域医療の問題が顕著になったのは2000年代になってからですね。さらに04年の研修医制度の改革が拍車をかけた。人口減少、高齢化というのは労働力の低下ですから、ヒューマンリソース(人的資源)としてすべての領域が減少傾向にある。そこに医師不足も加わってしまったと。

津田:改革したら、いい面と悪い面が出てくるものですが、悪い面のほうが目立って、地域医療の体力をどんどん奪う結果になっていったんですね。

海堂:『白い巨塔』に端を発して、大学の研修医、医局制度は諸悪の根源だと言われてきましたから。

津田:海堂さんから見て、実際に諸悪の根源でした?

海堂:独裁制みたいな医局はとんでもないけど、それは一部の話。裏を返せばいい教授ならいい教室になるわけで、功罪相半ばするものですよ。僕は人を育てるという意味でいい制度だと思っていて、壊すのは反対だったんです。しかし医局が人材プールとして機能していたことは、壊れて初めて気がついた。だから改革を進めた厚生労働省を一概に責められないところはありますね。

津田:海堂さんの小説をはじめ、ここ数年で地域医療をテーマにした本がどんどん出てきています。読んでいて思ったのは、問題が表面化する過程で、ネットが果たした役割は大きかったのかなと。

海堂:ええ、大きいですね。

津田:さまざまな医療関係者がブログを書き始めたことで、クレーマーまではいかないけど医療に100%を求める患者の問題や、サイレントマジョリティーだった医師たちの声が聞こえるようになった。この状況は医療界にどんな影響を与えているのでしょう。

海堂:風通しはよくなりましたよね。医療従事者が声を上げるというのは前からやっていたんです。でも新聞とかテレビにシャットアウトされて、その声は届いていなかった。ネットは誰でも発信できますから気軽に風穴を開けることができます。ただ、津田さんはネットの旗手ですから感じられていると思うんですけど、ネットって風穴を開ける力はあるけど、構造を変える力はないかなと。改善しないで、建物を壊しちゃうかもしれない。

津田:穴が開きすぎて寒い、みたいな。

海堂:ええ、夏ならいいけど(笑)。穴を開けても、その後のグランドデザインがないと大変なことになる気がします。

津田:おっしゃるとおりですね。どちらかというとポジティブに何かを盛り上げてつくり上げていこうという力より、不祥事とかネガティブな問題が起きたとき、何かを壊そうとする力のほうが集まりやすい面がある。

週刊朝日 2013年12月6日号