性的少数者や同性婚をめぐり、「見るのも嫌だ」「秘書官室もみんな反対する」などの発言で、荒井勝喜首相秘書官が更迭された。今回の事態について、LGBTQ当事者で一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さんに聞いた。AERA 2023年2月20日号の記事を紹介する。
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荒井勝喜前首相秘書官の発言は解釈の違いとか誤解とかそういうレベルではなく、言い訳のしようがない差別発言です。こうした発言が出てくる今の日本の政治の状況に、まずは本当に衝撃を受けました。
「秘書官室もみんな反対する」という言葉は、つまり政権中枢が差別的な認識をもとに政策を実行しているということだと思わざるを得ません。秘書官個人の発言のレベルを超えて、政権全体の問題と感じました。
更迭は当然ですが、その判断が今回は早かった。さっとトカゲの尻尾を切って逃げ切ろうとしているように見えます。更迭してこの問題が終わるわけではなく、たぶん同じようなことを繰り返すだろうし、すでに繰り返してきたとも言えます。
多様性や人権の尊重を口先だけでうたうのではなく、具体的な法整備をして初めて責任を果たせる──。そう考え、5日夜にオンライン署名サイト「Change.org」(チェンジ・ドット・オーグ)で署名活動を始めました。LGBTQの人権を守る法整備を岸田文雄政権に求めるためです。
多くの方に協力していただいています。就職などで差別的な取り扱いを受けている当事者はたくさんいるのです。政府は性的マイノリティーの人権を守ってきませんでした。今回の件はむしろ政府が差別を広めているような状況とも言える。だからこそ、実効力のある法整備が必要です。
5月に日本が議長国となって広島でG7サミット(主要7カ国首脳会議)が開かれる予定です。LGBT差別禁止法や同性カップルの法的保障がなく、法的性別変更について非人道的な要件が残っているのはG7で日本だけです。
「(同性婚を)認めたら国を捨てる人が出てくる」との発言もありました。この政府の認識に嫌気がさし、多様性を認めない、変わろうとしない日本に諦めや絶望を抱いて海外に移ろうとする人はすでに出ており、これは当事者に限らないと思います。
一昨年に棚上げになったLGBT理解増進法案を自民党幹部は進めようとしています。これを落としどころにしよう、ということでしょう。でも、私が強く言いたいのは、必要なのは理解の増進ではなく差別の禁止だということ。これはやはり明確にするべきことです。日本はこの期に及んで効力の低い上っ面だけの法律を作ろうとしている。明らかに特殊な状況です。
(構成/編集部・高橋有紀)
※AERA 2023年2月20日号