まもなく公開の映画「許されざる者」で、冷酷な悪役を演じている佐藤浩市さん。以前から佐藤さんのファンであることを公言している作家の林真理子さんと対談を行った。
林:歴史の転換期で、みんなが罪を犯したり殺したりしながら生きているわけですから、誰もが許されないけれども、誰もが許される、誰にも裁く権利はないという、そこがテーマかもしれないですね。ロケ地は雪の中で、ほかに何もなさそうなところですけど、夜は共演者の方たちとお酒を飲んだりお話をしたりできる環境だったんですか。
佐藤:そうですね。泊まっていたところが、温泉街とも言えないぐらいの、本当に何もないところだったんです。でも、ホテルの地下の居酒屋さんが午前1時ぐらいまでやっていたので、ほぼ毎日そこに行っていましたね。警察署員役の連中とかみんなで。
林:でも、楽しそう。
佐藤:というより、相日(ザンイル)に対するグチの言い合いでしたね。(笑)
林:この映画の李相日監督ですね。
佐藤:久々にキツいやつに会ったなという感じで。
林:監督のほうがずっと若いんでしょう?
佐藤:若いです。まだ30代じゃないかな。
林:自分が演技プランを持っていても、自分より若い監督に「こうしてください」って言われると……。
佐藤:そこは徹底的に話し合いですよ。いちおう三十何年キャリアがあり、自分の主張を通してやってきて今がある以上は、それほど間違ったことは言ってこなかったんじゃないかという気持ちも自分の中にある。だけど、パッと見てわかるんです。そいつのセンスは1カット目でわかるから、ある程度は彼を信用しようと思うときもあるし。
林:年齢は関係ないわけですか。
佐藤:関係ないと思いますよ。ただ、相日の場合は、言葉のキャッチボールの中でつくっていくことをいさぎよしとしない部分がある。言葉の中からじゃなくて、違うメンタリティーの中から形を絞り出してほしいということだったので、だからキツいですよね。言葉をつむげない中でヒントを探すって、やっぱりキツい作業ですよ。
林:でも季監督、30代の若さでこれだけの名優たちに指示しなきゃいけなかったわけでしょう。大変だったと思うな。雪の中のシーンでも、「もう一回」「もう一回」って言うこともあるわけですよね。そういうとき、ためらいはなかったんですかね。怖くて言えなかったとか。
佐藤:ぜんぜん関係ないですね。
林:私の親しい人が、映画を撮りたくて仕方がなくて撮ったんですけど、俳優さんにナメられちゃって、かわいそうな目にあったみたいで。
佐藤:われわれ俳優という生き物としては、そういう部分はありますよね。話している中で、「こいつ、何もわかってねえな」と思うと、それはやっぱりナメますよ。そうじゃなくて、「こいつはわかってるな」と思った人とやるときは、絶対にナメられないですからね。だから相日のことも絶対にナメられないですよ。芝居の中でちょっとウソがあったら絶対にバレるな、許さないだろうなこいつは、と思いますからね。「なんで今のがダメなんだよォー」って文句は言うけど……。
※週刊朝日 2013年9月13日号