東京都在住の主婦、水本亜希さん(仮名・53歳)は10年来、胃痛や胃もたれを感じていた。市販薬や、近所の診療所で処方してもらう胃薬を飲んで過ごしていたが、病状は一向によくならず、時間が経つにつれてだんだん悪くなっていった。2006年春、水本さんは知人から胃の病気の治療が豊富だという評判を聞き、順天堂大学順天堂医院の消化器内科を訪れた。

 問診、診察の後の胃内視鏡(胃カメラ)の検査では、胃の粘膜などには異常が見つからず、胃炎の原因になるピロリ菌も検出されなかった。超音波検査でも、内臓の異常は見つからなかったことから、機能性ディスペプシア(FD)と診断された。FDは、最近、健康保険が使える病名として認められた胃の病気だ。日本では全人口の26%が罹患しているとも言われ、ストレスがおもな原因だ。

 国際的な診断基準「ローマIII」によると、みぞおちの痛みや灼熱感(焼ける感じ)、食事開始直後の早期飽満感(すぐに満腹になり、食べられなくなる)、上腹部の膨満感(おなかの張り)、食後のもたれ感などの病状が、6カ月以上前から出現し、直近3カ月はその症状が続くものをFDと呼ぶ。検査をしても病状の原因になりそうな病気が見つからないことが特徴だ。

 目で見て診断できる病気ではないため、「気のせい」とされ、病院に行っても対症的に胃腸薬を出されて経過をみられるケースも多い。しかし病状がよくならないため、疑心暗鬼になった患者がたくさんの病院を受診してしまう「ドクターショッピング」に陥ってしまうことも少なくないという。

週刊朝日 2013年8月9日号