「光るもの」を見ると、現代人はとっさに電気がついていると考えるだろう。しかし、自然界には自ら光る生物がたくさんいる。
写真家の西野嘉憲さんは、10年ほど前、夜の八丈島の山で“光るキノコ”に偶然出会った。30メートルほど離れていても、はっきりわかる明るさだ。その姿に魅了され、以来、日本各地で発光キノコを撮影してきた。
「長時間露光でシャッターを開いている間、キノコを見ていると不思議な気持ちになります。宇宙空間のような、別の世界にいる感じ」
西野さんはそう話す。現在見つかっている発光キノコは、世界で約70種類、日本では10種類ほど。うち7種類が発見された八丈島は、発光生物の研究者にとって、“聖地”とも言われている。
発光キノコは、夜の森に入れば必ず見つかるわけではない。私たちが呼ぶ“キノコ”は子実体(しじつたい)といい、胞子をばらまくための器官。通常は肉眼では見えにくい菌糸の状態で、“キノコ”として出現するのは、降雨や台風の後などが多い。発光しているのは、2、3日程度だ。
なぜ光るのか? その仕組みや理由はまだ解明されていない。発光生物を研究している名古屋大学の大場裕一さんはこう話す。
「光で虫を集めて胞子を散布させている説、逆に毒を持つことを虫に示し、捕食を回避している説、化学反応の副産物として発光している説などがあります。でも、もしかしたらキノコの発光には何の意味もなく、結果的に進化の過程で光るようになっただけかもしれません」
オワンクラゲの発光物質を特定し、2008年にノーベル化学賞を受賞した下村脩さんが目下研究しているのも、発光キノコの光る仕組みだ。
大場さんによると、街の中でも、湿った場所にある葉っぱなどが光ることもあるという。発光する菌糸は珍しいものではなく、それがついていれば葉が光って見える。街灯が明るすぎて気づかないだけなのだ。今夜も地球上のどこかで、人知れず、光を放ち続ける生物がいる。
※週刊朝日 2013年8月2日号