全野党が反原発を訴えるも、具体的な解決策を示すことができず惨敗に終わった今回の参院選。ジャーナリストの田原総一朗氏は、与党圧勝のこの状況以外にもさまざまな問題点があるという。たとえば、山本太郎氏の当選や共産党の都議選に続く躍進だ。
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これらの“番狂わせ”は、自民党に対する批判票が行き場を失い、結果としてこれまでと違う新しい対象を求めた結果だろう。つまり、多くの市民が民主党をはじめ、自民党をも含めた全党に、「原発について、もっと真剣に対応しろ」というメッセージを送ったのである。
それにしても深刻なのは、投票率の低さである。52.61%という数字に対する責任は、政治家だけでなく、マスメディアによる選挙報道にもあると私は思う。7月4日の選挙公示後、有権者がどの党に投票すべきかと真剣に考え、悩んでいたとき、新聞もテレビもそうした疑問に答えるような報道を提供できていただろうか。
むしろ、各党の政策の具体的な問題点にはほとんど触れることなく、どの党が勝つか、もっと露骨に言えば、自民党と公明党がいかに優勢か、という報道ばかりをしていたのではないだろうか。投票率の低さを嘆くばかりではなく、投票率を上げるような報道になるよう工夫すべきである。
さて、圧倒的な勝利を得て、衆参の「ねじれ」を解消することに成功した安倍晋三内閣は、今後、どのように日本を舵取りしていくのだろうか。新聞やテレビでの報道では総じて、参院選が終われば安倍首相は「右翼」の本性を丸出しにして、悲願である憲法改正実現に躍起になる、と警戒する論調を展開してきた。
だが、私はマスメディアの予測は大きくはずれるととらえている。選挙後の安倍首相の最大の課題はアベノミクスの実現だ。いまだアベノミクスへの期待度は高いが、国民が成長を実感できるのは生やさしいことではない。先延ばしにした構造改革などやるべきことは多い。来年、消費税増税を実行すべきかどうかも熟慮しなければならない問題だし、TPPの交渉も始まる。とても憲法問題や集団的自衛権の問題に取り掛かる余裕はない。私は、憲法問題は数年後の次の衆院選の課題になるだろうととらえている。
ところで、参院選後の安倍首相について、私が気になるのは外交政策である。現在日本は尖閣問題をめぐって中国と対立し、靖国問題、慰安婦問題などでは韓国ともギクシャクしている。安倍首相は昨年12月の就任以来、いまだに両国首脳との会談を実現できていない。日本と最も近い両国と緊張関係にあるわけである。
安倍首相は、当然ながら日米関係を最優先に考えているはずだ。そのことは間違ってはいない。だが、安倍首相が2月に行ったオバマ大統領との会談はわずか1時間40分。一方、5月に訪米した韓国の朴槿恵大統領は安倍首相もできなかった米議会での演説をやってのけ、改めての厚遇ぶりを見せつけられた。
※週刊朝日 2013年8月2日号