世界のグローバル化、市場・貨幣経済化の流れの中で、神戸女学院大学名誉教授の内田樹氏らの説く“ポストグローバル”論が注目されている。ジャーナリストの田原総一朗氏は、彼らの“大胆な発言”にこう反応する。
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『脱グローバル論 日本の未来のつくりかた』という本を書店で見つけた。内田樹氏、中島岳志氏、平松邦夫氏、小田嶋隆氏、平川克美氏などといった、いずれも活字の世界では非常に注目されている人々が中心となって展開されたシンポジウムをまとめた本である。
彼らの鋭い切り口の文章は、私も何度か読んで、大いに刺激を受けている。そこで、さっそく購入した。
どうやら、この人たちが対象、というよりも敵視しているのは、いわゆる新自由主義とグローバリズムのようだった。批判のターゲットとしているのは、橋下徹氏、安倍晋三氏、そして竹中平蔵氏の三者だった。
内田氏はグローバリズムを次のように定義づけている。「企業の収益を上げるためなら、国民国家なんてどうなってもいいというのがグローバル企業の本音です。要はそこに投資し、経営している個人の個人資産の増減だけが問題であって、国益などというものは考慮の外である、と。(中略)彼らにしてみたら、国民国家なんかどうなってもいいんです。『何のために経済活動をするのか?』という問いに対して『自分の個人資産を増やすため』と答えて恥じない人たちがリーディング・カンパニーの経営者となって、今や国民国家の政治経済を牛耳っている」。
内田氏は、また新自由主義についても、次のように述べている。「この20年ほどの『構造改革・規制緩和』の流れというのは、こういう国民国家が『弱者』のために担保してきた諸制度を『無駄づかい』で非効率的だと誹(そし)るものでした。できるだけ民営化して、それで金が儲かるシステムに設計し直せという要求がなされました。その要求に応えられない制度は『市場のニーズ』がないのであるから、淘汰されるべきだ、と」。
この一文は、まさしく小泉純一郎氏と竹中平蔵氏が組んだ小泉政権批判であり、同時にアベノミクス批判である。アベノミクスの中軸となっているのは竹中氏であり、竹中氏は両内閣で「国民国家」を破壊し、「社会制度を『弱者ベース』から『強者ベース』に書き替える」作業に専念しているというわけだ。
しかし小泉内閣は、国民の高い支持を得て5年間も続き、安倍内閣も、各新聞の世論調査で60%以上の高い支持を得ている。ということは、小泉内閣、そして現在の安倍内閣を支持している国民は無知でバカだということになるのだろうか。もしも参院選で自民党が大勝でもすれば、国民は大バカだということになる。あるいは、そのように国民をとらえているのが知識人の資格ということになるのだろうか。
では、反グローバル、反新自由主義の社会はどうあるべきなのか。内田氏は次のように語っている。「ポストグローバルの日本のありようというのは結局、『脱市場・脱貨幣経済』にあって、基本的には顔の見える小さいコミュニティをベースにして、その中で基本的には物々交換、手間手間交換をして、できるだけ貨幣を介在させないで生活のクオリティを上げていくことじゃないかと思ってるんです」。
極めて大胆な発言だが、こんな言葉を聞いたら、安倍首相や竹中氏は、理解しようがなくて己の耳を疑ってしまうのではないだろうか。そして私は、知識人でないが故に大胆になれない自分にホッとしている。
※週刊朝日 2013年7月26日号