近年、社会的な関心が高まっている「大人の発達障害」。不適応やコミュニケーションの問題で悩み、就労にも課題を抱えるケースが多い。いじめによる被害、ひきこもり、うつや不安障害などの二次的な問題を抱えることも少なくない。山梨県立こころの発達総合支援センター所長の本田医師に話を聞いた。
山梨県出身の鳥飼進さん(仮名・32歳)は、周囲から「少し変わった人だ」と思われていたが、真面目に生活していた。子どものころから成績は優秀で、東京都内の国立大学工学部に進学。大手電機メーカーに技術職として就職したが、会社の方針で入社後数カ月は営業部に配属された。
しかし鳥飼さんは、得意先の担当者と意思疎通がうまくできず、細かな伝達ミスを頻発した。お詫びの電話をかけたときも、次のような具合だった。
先方に、「いま手が離せないので、10分後にかけ直してください」と言われた鳥飼さんは、約束通り10分後にかけ直してこう言われた。「先ほどは失礼しました」。この言葉を真に受けた鳥飼さんは、社交辞令として受け流せばいいところを、「気にしないでください」と返事をし、相手の機嫌を損ねてしまった。
上司から注意を受けても、なぜ注意をされたのかわからず同じようなトラブルを繰り返していた鳥飼さんは、数度目に注意された後、怒って会社を辞めてしまった。
その後いくつかの会社に採用されたものの、コミュニケーションの問題で退職を繰り返した。会社でどうしてうまくやれないのか悩み、山梨県立こころの発達総合支援センター所長の本田秀夫医師を訪ねた。
本田医師は鳥飼さんの生育歴や現在の問題点をていねいに問診し、「自閉症スペクトラム障害」と診断した。自閉症スペクトラム障害とは、自閉症や高機能自閉症、アスペルガー症候群などの、特性が重なる一連の発達障害をさす。生まれつき脳の機能に何らかの異常があると考えられているが、詳しいメカニズムはわかっていない。
本田医師によると、この障害の特性は「臨機応変な対人関係が苦手で、自分の関心、やり方、ペースの維持を最優先させたいという本能的志向が強いこと」だという。
※週刊朝日 2013年7月12日号