この状況を見て、日ごろから日本政府のやり方に疑問をもっていたヒロシは、何となく予感するものがあった。

「これはおそらく、日本政府官邸による、優遇措置にちがいない! 一般の人々には許されないことが、政府の関係者にはさまざまな利益が提供される! 今回の措置も、その一つにちがいない。やむを得ない事情って、いったい何なのだ。そんなことを言ったら、誰だってあるに違いない。なぜ、この人たちだけが許され、他の人はできないのか? きっと、何か深いつながりがあるに違いない!」

 こうして、ヒロシはネットを使って情報を発信し、「ウィルス・ゲート事件」と名付け、さらに具体的な行動に出ようかと思案している。こうしたヒロシの行動は、「フェイク・ニュース」を助長するものだと言えるのだろうか。
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 この思考実験は、中国の武漢市からチャーター便で1月末に帰国し、千葉県のホテルなどに滞在している邦人のうち、計11人が「やむを得ない事情で国内の自宅などに戻った」(2月5日「共同通信」)という報道にもとづいて、着想されたものだ。

 政府の方針では、帰国者に対して「検査で陰性だった場合でも最長2週間、宿泊先に滞在し、症状が出ないかどうか経過観察するよう要請」していた。ところが、特に説明もなく、一部の人々はこの方針が免除され、自宅に帰ったのである。(しかもそのうちの一人に、後に陽性反応が出たようだ。2月11日「読売新聞オンライン」)

 こうした不公平は、どうして生じたのだろうか。明確な理由が説明されなければ、政府に対する不信感は、ヒロシにかぎらず大きくなるだろう。そして、政府への不信感が大きくなれば、国全体が「真実」に対して、感受性を失ってしまうのではないだろうか。

「政府はいつもウソをついている」と国民が思ったら、政府の発表はいつも「フェイク・ニュース」と受け取られるにちがいない。これでいいのだろうか。

 アメリカでは、「フェイク・ニュース」が問題になったとき、陰謀論にもとづいてピザ店を襲撃した「ピザ・ゲート事件」が起こっている。これは、アメリカ大統領選のさなかに、広まったデマ(ヒラリー・クリントン陣営の関係者が人身売買や児童性的虐待に関与しているというもの)で、その噂にもとづいてピザ店が発砲されたのだ。

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