『M-1グランプリ』の歴史の中でも、昨年末の大会は「上位3組がそれぞれ結果を出してその後も活躍している」という点で特筆すべきものだった。
【2018年の『M-1』優勝で一夜にして人生が変わったのはこのコンビ】
優勝したミルクボーイが大活躍しているのはもちろんだが、それに続くかまいたちもぺこぱもブレークしている。2位だったかまいたちは、ほかの2組に比べるともともと知名度があった分だけ大会前後の落差は少ないが、改めてその面白さを認知され、着実に仕事を増やしている。3位だったぺこぱも最近になってバラエティー番組に出まくっている。
ぺこぱが『M-1』で見せた漫才は世間に衝撃を与えた。シュウペイの放つ軽いボケに対して、松陰寺太勇はツッコむと見せかけてツッコまない。
タクシー運転手を演じるシュウペイが道端で手を挙げている松陰寺を車ではねると、松陰寺は「いや、痛えな、どこ見て運転してんだよ……って言えてる時点で無事で良かった」と言う。さらに、続けてもう一度ぶつかったときにも「いや、2回もぶつかる……ってことは俺が車道側に立っていたのかもしれない」と言う。
本来なら、ツッコミは常識を振りかざして非常識なボケを訂正するものなのに、ボケに理解を示す「優しいツッコミ」を繰り出したのが斬新だった。
インターネットが社会を分断しているせいで、現代人は優しさに飢えている。だから相手を否定しない「優しいツッコミ」が人々の心を和ませたのだ、というようなもっともらしい話まで出てきている。
ここで改めて考えたいのは、ぺこぱの漫才における「優しいツッコミ」はなぜ面白いのか、ということだ。これを考えるには、そもそもツッコミはなぜ面白いのか、というところから話を始める必要がある。
「ツッコミが面白い」と言うと、違和感を持つ人もいるかもしれない。「面白いのはボケの方だろう」と。しかし、違うのだ。冷静に観察してもらえれば明らかなのだが、漫才でボケとツッコミがあるとき、多くの人はツッコミのタイミングで笑っている。ボケで笑う人はほとんどいない。
なぜなら、ボケはツッコミで笑いが起こるようにセッティングされているからだ。ボケとツッコミはもともと一体のものだ。ボケはツッコミとの合わせ技で威力が増すように作られている。だから、ボケとツッコミの間の尺は通常とても短い。ボケを聞かせた後、観客が理解するかしないかのうちにツッコミを重ねることで、溜め込んだ分の笑いがドッと起きるようになっている。