私自身は制作会社でテレビ番組の制作に携わっていた経験があるため、本作で描かれていた現場の雰囲気は何となく理解できる。その意味では、異業種の世界を覗き見するという楽しみはそれほどなかった。ただ、懐かしい感じがした。私自身がテレビの現場を離れてから随分経つが、その空気感は本質的にはあまり変わっていないように感じられた。ああ、そうそう、テレビってこういう感じだよな、と思った。
私は本作を、テレビ制作者が作ったテレビ制作現場の「あるあるネタ」として楽しんだ。ああ、あるある、こういうことってあるよね、こういう人っているよね、というのが第一の感想だ。
ただ、その意味では、本作は中途半端な出来ではないか、と途中まで見た段階では感じていた。確かにテレビの空気感は伝わってくるのだが、肝心なところが十分に説明されていないではないかと思ったのだ。
だが、その疑問は最後に解けた。ネタバレを避けるために具体的なことは伏せるが、ラストシーンで私が考える「テレビの最もテレビらしいところ」が明かされていた。それを見て私は、今までよりさらに深くうなずき、そうそう、テレビって結局こうなんだよな、と思った。
本作は人によって評価が分かれるだろう。ジャーナリズムのようなものに価値を置いている人にとっては、本作のアプローチはテレビの自己批判としては踏み込みが甘くて物足りないと感じられるかもしれない。また、純粋な娯楽映画として見た人にとっては、分かりやすい結論やメッセージ性がないところが不満に思えるかもしれない。ただ、そのように見る人によって感想が異なり、気になるポイントが違うのは、本作が優れたドキュメンタリーである証だ。
自分で自分をくすぐるのは難しい。テレビ制作者がテレビそのものを批評するのが難しいのもそれと同じだ。だが、この映画では、奇跡的にある程度までそれに成功しているように思える。それは、本作の作り手が、生ぬるい理想論や分かりやすい対立構造に落とし込むことなく、一歩引いた立場でテレビの本質を切り取ってみせたからだ。
皮肉にも、テレビに「さよなら」を告げている本作こそが、滅びゆくテレビに残る数少ない希望であり、最後の良心なのだ。(ラリー遠田)