この点について、毎日新聞が興味深い記事(昨年12月17日付)を掲載している。記事によると、台風19号で死者10人、行方不明者1人を出した宮城県丸森町では、山に生えている木を広範囲にわたってすべて伐採する「大規模皆伐」が行われていた。皆伐された山からは、幅数十メートル、長さ100メートル以上の土砂崩れが発生していたという。皆伐されていない周囲の山は、土砂崩れがおきていなかった。

 実は、安倍政権では「林業の成長産業化」を旗印に、戦後に植林したスギやヒノキの伐採を奨励している。これが、専門家の間で「豪雨時の土砂崩れを誘発している」との指摘が出ている。水ジャーナリストの橋本淳司氏は言う。

「健全な森林が育んだ土はフカフカで、水や空気を吸収します。しかし、皆伐された森林では地表がむき出しになってカラカラに乾いてしまいます。雨が降れば、コンクリートの上を流れるように水を低い場所に流すだけ。谷となっている所など一部の場所に水が集中して勢いを増し、土砂崩れを引き起こします」

 安倍政権は、災害に強い国づくりを目指す「国土強靭化」を政策に掲げているが、環境に配慮しない無計画の皆伐は「国土弱体化」を招く。橋本氏は続ける。

「少量の雨でも、皆伐された山からは少しずつ土壌が削り取られていきます。その土がダムの底に大量にたまれば、公表されている貯水可能量が貯められなくなる。川に流れたら河床を引き上げ、氾濫しやすくなる。いくら堤防を高くしてダムをたくさん作っても、大雨の前に土が大量に流れ込んでしまえば意味はありません」

 安倍政権では、植林から51年以上経ったスギやヒノキについて「主伐期を迎えた」として、伐採量を増やす政策を推進している。17年に36.2%だった木材自給率を、25年までに50%に引き上げることを目標にしているためだ。18年に森林経営管理法、19年に国有林野管理経営法が改正され、大規模に木を伐採できる法律の成立も相次いでいる。また、林野庁は、短時間で大量の木を伐採できる「高性能林業機械」の導入などを推進していて、20年度は概算決定額で約129億円の予算が付いた。さらに森林環境税の導入で、林業関連の予算はさらに増える見込みだ。ところが、高性能林業機械は機械の大きさに合わせて幅の広い林道を必要とするため、急斜面に大きな林道をつけて、そこから土砂崩れが起きるケースが相次いでいる。

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政府は皆伐の危険性を理解していない