香港に行ってきました。
一番の目的は野田秀樹さんの『THE BEE』を観ることです。
一度、海外で日本人が作った芝居を観てみたかったのですが、なかなかそういう機会に巡り合いませんでした。
香港ならば、あまり時間をかけずに行けますし、『THE BEE』のイングリッシュ・バージョンは、初演の時に東京で観ている。
日本と香港でのお客さんの反応の違いが知りたかったので、ちょうどいい公演でした。
いろいろと仕事が重なった時期ではありましたが、なんとか終わらせることができたので、珍しく何も仕事がひっかからない休暇が過ごせました。
『THE BEE』香港公演は、Hong Kong Arts Festivalの正式招待作品です。公演会場はHong Kong Cultural Centre。九龍半島の先端、尖沙咀駅からも近く、ペニンシュラホテルの真向かいにあるというとてもロケーションのよい場所です。
さすがは野田さんというべきか、主演のキャサリン・ハンターの人気なのか、理由は分かりませんがチケットはすでに売り切れています。人気の公演のようでした。
会場に行って驚いたのは、10代くらいの若いお客さんがとても多かったこと。このフェスティバルは、今回で40回目というとても歴史のあるもので、企業の協賛も多く、そのおかげで学生のチケット代は大人の半分以下、1500円程度でみられるということで、なるほど、だからこれだけの若い人達が来ているのかと納得しました。
でも、とてもいいことですね。
日本で、NODA・MAPの芝居の客席がこれだけの10代でうまっているところを見たことがありません。こうやって若い層が演劇に触れる敷居を低くすることで、次の世代につないでいくことは絶対に必要です。
正直、今、劇団☆新感線のチケットはかなりの高額になっています。もちろん出してもらった金額に見合うだけの作品は作っているつもりですが、現実として「チケット代が高すぎて見られない」とあきらめる人もいるでしょう。そういう人達へのアプローチとしてゲキ×シネという、舞台作品を10台以上のカメラで撮って映画並みの編集をして映画館にかけるという展開もやってはいるのですが、やはり生の舞台も観てもらいたい。せめて少数枚でもいいから学生だけでも低料金のチケットを用意することは、自分たちのためにもなるんじゃないかなと思います。
特に僕はこの数年、アニメや『仮面ライダーフォーゼ』など、10代からそれ以下の年齢をターゲットにした仕事もやってますので、そちらで僕の仕事に興味を持った若者に新感線も観てもらいたいと思うのですが。
芝居を観ている間も、香港の若い観客の反応はとてもダイレクトでした。
とにかくよく笑う。
『THE BEE』は筒井康隆さんの『毟りあい』という短編小説が原作です。
自分の家に籠城され家族を人質にとられた主人公のサラリーマンが犯人の家に行き同じように犯人の家族を人質にとる。そしてその脅迫合戦がどんどんエスカレートしていく。
この時期の筒井さんらしいブラックユーモアに溢れた作品です。
その主人公のサラリーマンをキャサリン・ハンターが、人質となる犯人の妻を野田秀樹さんが演じている。
被害者が加害者になるというストーリー上の逆転の上に、演者の性別の逆転を重ねる。その他にも抽象的でシンプルな仕掛けを用意した作品です。
日本での公演が今からなので具体的な描写は避けますが、相手の身体を傷つける行為の表現など視覚と聴覚どちらにも響くように作られていて、生理的な嫌悪感はありながらも演劇的な表現としては素直に「うまい」と思ってしまいます。
初演を日本で観た時には、この辺のシーンでは客席は息を呑んでいたのですが、香港のお客さんはよく笑う。考えてみればおかしい場面であるのも確かです。でも、僕はそうは笑えない。香港の人間の方が感覚がタフなのかな。それとも若さ故の残酷さなのか。
やはり日本とは違うものだと感じられて、行った甲斐はありました。
香港の若者たちがあの芝居を観てどう感じたのか、知る機会があればいいのですが。
ちなみにこの『THE BEE』イングリッシュバージョンの東京公演が、2/24?3/11まで水天宮ピットで行われます。チケットは完売のようですが当日券は出るようです。 興味がある方は是非。