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「人間は進化したら何になるの?」
「どうして、“わたし”は“わたし”なの?」
発想豊かな子どもの疑問に大学教授が本気で答える連載「子どもの素朴な疑問に学者が本気で答えます」。子どもに聞かれて答えられなかった疑問でも、幼い頃からずっと疑問に思っていることでも、何でもぜひお寄せください。明治大学教授の石川幹人さんが、答えてくれますよ。第5回の質問は「なんで悲しいと涙があふれるのですか?」です。
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【Q】なんで悲しいと涙があふれるのですか?
【A】涙は、あなたが悲しい気持ちであることを伝えるサイン
あなたが家で飼っている犬のことを誰かに話すとき、どのようにしたら「犬だ」と伝えられるでしょうか。私たちには言葉という便利なものがあるので、日本語では「イヌ」と言い、英語では「dog」と言えば伝達できますね。では、まだ言葉がない時代はどうだったでしょうか。きっと、犬の鳴き声やしぐさをまねて、ジェスチャーで伝えていたでしょう。
さて、悲しみはどのように伝えるのでしょうか。考えてみると、悲しいという感情は、心の内側の体験であって、その体験そのものを直接、ほかの人に感じとってもらうことはできないですよね。あなたが、家の犬について想像している内容そのものを、他人が直接知りえないのと同様ですね。しかし、悲しみの手がかりが身体で表現されていると、犬を表わすジェスチャーと同じように、悲しみを伝えることができるのです。その大きな手がかりとなったのが、涙です。
まず、ひとりで悲しみにくれているときに、自然と涙が流れてくる体験をします。すると、このように悲しいときには涙が流れるのだな、とわかります。つぎに、誰かが涙を流しているのを見ます。するとこんどは、あの人は「自分と同じような悲しい体験をしているのだな」とわかります。
これはたんに「わかる」だけでなく、「感じる」のです。脳にはミラーニューロン(鏡のような働きをする神経細胞)というものが見つかっていて、人の様子を見ただけで、その人と同じような気持ちになる仕組みがあることが知られています。たとえば、食事をしている人を見れば、自分が食事をしているときと同様の脳の働きが起き、食欲が増すのです。