釧路駅前で客待ちしていたタクシーの運転手さんは、「去年関西から来たお客さんを、約150キロ先にある根室駅までの往復で乗せた」と教えてくれた。
ご当地入場券を求めて釧路に着いたのに、線路障害で列車の運休に見舞われたというその客は、タクシーで向かうことを即決したという。運転手さんいわく、「『関西からもう1度飛行機で釧路に来ることを思えば安上がりだ』と言っていたけど、料金は7万円近くかかった」。170円の入場券に7万円……なかにはこんな強者もいたのだ。その執念には脱帽するしかない。
このように、目の前のハードルが高ければ高いほど、燃え上がるのが収集癖のやっかいなところ。入手困難であればこそ、完全制覇ができそうでできないからこそ、とことんやってしまうのである。
例に漏れず、私もJR北海道のHPを熱心に読み込み、北海道の地図を穴が開くまで目を通し、収集を続けてきた。北海道という広大なフィールドは、四国生まれ四国在住の私にとっては隣駅までの距離も遠く感じるのだが、一駅ごとに入場券を買い求めて行くうちに、その駅でしか味わえない、貴重な経験を体感できたのも事実だ。
そのひとつに夕張駅がある。2019年3月31日に廃止となった駅で、ご当地入場券の販売もこの日をもって終了となった。
もちろん最終日に訪れ、全国から駆けつけた同士や地元の人たちと、黄色のハンカチを振って最終列車を見送った。次の日、夕張駅に行くと、昨日まで走っていた夕張線の線路に立ち入り禁止の看板があり、柵が一夜のうちに閉められてしまっていた風景が印象的だった。
また、来年5月6日で廃止が決まった札沼線の非電化区間で、1日1往復、午前10時には最終列車が出てしまうという新十津川駅。
ここも駅の観光案内所でご当地入場券は発売されている。近所の保育園の子供たちが、毎回この1本の列車を見送るためだけに振り続けてくれる小さな手のひらがとても印象的で、いつまでも残してほしい光景だった。