ポイントは、通常運転の列車にも対応できるよう、ロングシート&取り外し可能テーブルの内装としたことで、必要に応じて通学などの輸送にも使用できる。肝心の乗車プランは、「お弁当プラン」と「ほろ酔いプラン」が用意され、6000円で利用できる。これならファミリーユースや少人数グループでも気軽に利用できそうだ。
「日本料理の『瓢麓苑(ひょうろくえん)』によるお弁当は高級感たっぷりで大変好評です。『ながら』には手が届かないと思われていたお客さまにも利用して頂いております」
多くの支援を得てクラウドファンディングは目標を大きく上回ったため、車両の改造費用のうち会社負担分を抑えることができ、結果として初年度でペイできたそうだ。つまり応援されて登場し、より多くの人々に愛される列車になった「第三のながら」なのである。
こうして「地元を誇れる列車」「地元を潤す列車」「ファミリーや団体で利用しやすい列車」といったいくつもの目標を達成し、社会貢献を果たした長良川鉄道だが、今年の春からは全く異なるコンセプトの観光列車も走らせている。
■清流に目もくれない観光列車
その列車とは「ながてつチャギントン」号。イギリスの鉄道アニメ「チャギントン」のラッピングを施した列車で、小学生以下の子どもと親のペアで申し込む観光列車である。車内は畳敷きで、GPSを使った仕掛けもあるという。
「ラッピングも結構工夫してありましてね、窓の部分に明るい日差しが差し込むと、キャラクターが窓から中を覗き込んでいるように見えて楽しんでもらえるんですよ」とおっしゃる坂本専務の言葉からわかるように、「ながら」とは真逆の、「絶景車窓をそっちのけで楽しむ列車」といえる。
この列車は、ターゲットが非常に明解なので「親子の絆」、「親子の思い出作り」が主な目的になるのだろう。しかし、この列車の社会貢献は一運行あたり30人の乗車定員よりずっと大きなものになっている。
「事前に運転日が知らされているので、沿線ではおじいちゃんが孫を連れて見に来ていたり、お母さんと子どもが駅で手を振ったりと、『会話する機会と話題をくれた』と喜ばれています」
観光列車単体で見ると、返済の見通しがしっかり立てられ、好調な状態が続いているが、豪雨災害にたびたび見舞われたり、沿線人口の減少に歯止めがかからないなど、全体で見ると経営環境は引き続き厳しい。それでも長良川鉄道のチャレンジは続いている。(文/松原一己)
○プロフィール
松原一己(まつばら・かずみ)大阪府枚方市出身。デザイン表札やステッカー制作を手がける日本海ファクトリー代表。趣味で行っていたトレインマークのトレースが高じて、ウェブサイト「愛称別トレインマーク事典」を運営する。著書に『特急マーク図鑑』(天夢人)、『特急・急行 トレインマーク図鑑』(双葉社・共著)。