「『ながら』の主なターゲットはシニア女性層です」と坂本専務。いわば「鉄旅女子会」というところだろう。“水戸岡ブランド”のネームバリューもあり、「九州まで行けないけれど、ここで乗れるなら乗りたい」という客や、2号車「鮎号」で提供される12,000円のランチプランを、「これまで頑張ってきたご褒美」としてプチ贅沢を楽しむ人も多いという。

 東海地方が観光列車の空白地帯だったこともあり、高い乗車率を順調に維持することができた。そこには、提携を結んでいる台湾からの観光客や、美濃和紙に魅力を感じて訪れる欧米の観光客などのインバウンド需要も追い風となったに違いない。その結果、なんと初年度で2万人もの利用があり、2000万円の収入があったというのだ。

「当初は5年かけて返済する予定の金額を、1年での完済が可能なほど好評でした」

 観光列車「ながら」の大成功は、結果として地域に潤いをもたらすことにもつながったと言われている。ある調査によると、日帰り旅行者が訪れることで地域に1人当たり約5000円の消費があるといい、「ながら」導入に伴う誘客によって沿線にもたらす経済効果は、鉄道収益だけではとても計れないほど大きかった。

「数年前までは長良川鉄道の存続価値が疑問視されることもありましたが、その風向きが大きく変わったと感じています」

 坂本専務は「ながら」の成功に手応えを感じていた。

■第三の「ながら」を投入したワケ

 こうして2両編成の「ながら」の登場は長良川鉄道にも沿線地域にも明るい光をもたらす結果になったが、もどかしい部分もあった。

「1号車『森号』でのビュープランは食事を楽しむ車両じゃないんです。もう一方の2号車『鮎号』のランチプランはお値段が張りますので、地元の人が利用したいと思ってもなかなか手が出ないと言われて残念に思っていたんです。『ながらに乗って景色と食事をもっと気軽に楽しめたらいいのに』という声に何とか応えたかったというのがきっかけですね。」

 そこで、3号車「川風号」の登場へと動くわけだが、すでに長良川鉄道の現役車両11両のうち2両は「ながら」に改造され、余剰車両はほぼ無いに等しかった。

「予算が限られているため、県からの補助金1000万円に会社負担400万円、さらにクラウドファンディングを活用して100万円を調達し、合計1500万円での企画として水戸岡さんに再びプロデュースをお願いしました」

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