「やっぱり2011年かな……。調子が悪くて、打てない時も使ってくれたからね。打てなくても二軍に落としたりせずに、一軍で試合に出し続けてくれたんだ。2013年の(日本新記録の)60本塁打ももちろん良い思い出だけど、オガワさんとの一番の思い出はあの年かな」

 来日1年目の2011年、バレンティンはオープン戦ではボール球に強引に手を出しては空振りや凡打を繰り返していたものの、シーズン開幕後は見事にこれを修正。5月には月間MVPを獲得するなど、順調な滑り出しを見せた。夏場には打撃不振に陥り、打順を7番に下げられることもあったが、それでも小川監督はバレンティンをほぼスタメンで起用し続けた。

 結局、140試合の出場で打率はリーグワーストの2割2分8厘ながら、31本のアーチを架けて本塁打王のタイトルを獲得。そこから3年連続でホームラン王になったのも小川監督のおかげだと、バレンティンは言う。

「オガワさんが監督で良かったと思っているし、感謝しているよ。素晴らしい監督だし、人としても素晴らしい。自分自身も、選手と監督として良い関係を築けていたと思っている。(辞任は)残念だけど、監督が決めたことだからね……」

 そういって小川監督の退任を惜しむバレンティンだが、このオフは自身も大きな岐路に立つ。来日9年目にして出場選手登録日数が8シーズン(145日を1シーズンとして換算)に達し、国内フリーエージェント(FA)権の取得要件を満たしたのだ。当然、FA移籍も視野に入ってくる。

 来シーズンを見据える上で、最も重視することは──。ストレートにぶつけてみると、バレンティンはそれまでかけていたサングラスを外し、真っすぐにこちらを見つめてキッパリと言い切った。

「WINNING(勝利だ)」

 いつものように冗談めかすわけでもなく、穏かではあるがどこか気圧されるようなトーンで、さらにたたみかける。

「とにかく勝つことが一番。金の問題じゃない。日本で9年やって、まだ優勝したことがないんだ。チームは2015年に優勝しているけど、オレはほとんど試合に出ていないから(出場15試合)あれはカウントできない。もう35歳だし、このまま一度も優勝できずに引退なんてご免だよ。だから大事なのは年俸や環境よりも、優勝できるかどうかなんだ」

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気になるバレンティンの去就は…