ようやく『ジャンヌ・ダルク』の幕が開きました。
今回、100人のエキストラのみなさんに協力いただき、舞台の上に英仏百年戦争末期の熱気を蘇らそうとしています。
演出の白井さんと初めてお会いしたときは、「舞台の上に1000人出したいんです」と言っていて、冗談というか、まあそのくらいの気構えでやりたいということかと思っていたのですが、そのあと、打ち合わせをしている時にも「戦闘シーンはものすごい人数が壁に向かって戦っているイメージなんです」と言っていました。
「まさかほんとに1000人出すつもりですか?」
「いえ、まあ、1000人は大げさですが100人は出したいですね」
と、冷静な顔で答える白井さんに、「ああ、この人も秘めたる狂気の人だ」と思いました。
「狂気」というと、ちょっと大げさですが、優れたクリエイターならどこかに度を過ぎたこだわりといったものを持っていると思うのです。どうせ一緒に仕事をするのならば、僕はそういうこだわりを持った人のほうが好きです。まあ、それでウマが合わないと悲惨な結果になるのですが、だからといって、無難な人とやっていても、波風は立たないかもしれないが、刺激も受けない。
白井晃という演出家は繊細でアーティスティックな作風だと思われています。僕の作風とは真逆のイメージも強い。
ですが、白井さんとのコンビには、期待していたところがあります。
僕の書く脚本は、自分でも癖の強いものだと思っています。台詞やロジックの組み立てに虚構性が強すぎるのか、新感線のいのうえひでのり以外は、なかなかバチッとはまる出会いが少ない。
ただ、『ジャンヌ・ダルク』の脚本依頼を受けた時、そして、それが白井さんのご指名だと聞いた時、なんとなくこの出会いはうまくいくのではないかと思えたのです。
脚本を書いている間は、白井さんとかなり細かい打合せをやりました。
ただ、その打合せがいやじゃなかった。個性の違う二人がそれぞれの方法論をぶつけあうのですが、言葉がわかるのですね。そして互いに譲れるところ譲れないところを確認し合いながら、前に進める。
舞台の脚本で、演出家とここまでみっちり打合せをやったのは久しぶりでした。でも、面白かった。
今回の芝居は、自分にとってとても刺激的な出会いになるのではないか。そんな予感がしました。
そして、その予感は当たっていた。
いつものいのうえ演出とはまた違った形で、スペクタクル性と繊細な表現を併せ持った舞台ができていると思えたのです。
もちろん、キャストもいい。
特に堀北真希さん、初舞台とは思えない力強さです。映像のイメージとは全然違う。
伊藤英明さんも、気弱で鬱屈した国王という普段とは全然違う役柄に挑戦しています。稽古場ではいろいろと探っていたのですが、幕が開いてからの進化の仕方は、さすがと思わせるものがある。
そのまわりを、手練れのベテラン達が固めている。
真っ正面から彼らにぶつかっていく真希さんと、それを受け止める伊藤さんやベテラン陣。それに若手のキャストが引っ張られる。
白井さんが選んだ100人のエキストラがその周りを囲む。
二重三重のダイナミズムが、舞台の上に生まれています。
初日にたどりつくまでは本当に大変でした。
でも、その苦労は実っていると思います。
初日のカーテンコール、三回目にはスタンディングオベーションになりました。それを受けている舞台上のキャストの晴れ晴れとした顔が印象的でした。
なにより自分がこの作品に関わっていることに胸を張れる。
そんな作品になってくれたことが嬉しいのです。