大塚:僕は、京都大学病院でメラノーマ専門外来をやっている。全国から患者さんがやってくるんです。その時に、おそらく、最初からホスピスを希望する人はいない。みんな、最後何か手はないかと思ってくるんです。その気持ちには応えようと、僕は「もう次の手がない」ということは言わないようにしている。もちろん、ガイドラインである程度の道すじはあって、メラノーマの薬物療法は、セカンドライン(最初のもっとも有効とされる薬剤が効かない場合に、次に選択される薬剤)までしかない。

 僕のところに紹介されたときにはセカンドラインも終わっている、というケースもある。そのときに、患者さんに、「手はないです、ホスピスに行ってください」というのは、間違っているという結論で僕は仕事をしてきている。これは賛否両論あると思うけれど、そうしないと見放されたと思った患者さんが次に流れてしまうのは民間療法なんです。そうするとお金を何百万円と積んで効くことのない治療を受けてしまう。そこだけは避けたいという気持ちがある。だから文献を調べて、エビデンス(科学的根拠)レベルが低くなってしまうけれども、使える治療法は提示していくというスタンスでやっています。実際、ガイドラインにある標準治療だけですべてがうまくいくわけではない。

夏川:前向きな提案を出せるようにしたいとは思っていますけどね。

大塚:なにかしら治療は見つけます。ただ治療をすることで生命予後を縮めてしまうという状況にもなってくるので、その場合は説明をします。

夏川:がんばるひとは多いんですか。

大塚:難しいんですよ。患者さん自身が、本当はもう限界を超えているとわかっているのに、僕があきらめないスタンスを提示しているがゆえに僕に合わせて「あきらめません」って言っている患者さんもおそらくいる。それを見極めなくてはいけなくて。本当は医者から、次は治療がないのであとは痛みを取ることを優先しましょうと言われたほうが楽な患者さんも一定数はいて。それがすごく難しい。言葉の意味だけじゃなくて、その背景にある考えもくみ取ったうえで、こちらは治療していかないと、本当に患者が幸せかどうかが結びつかない。

夏川:そんなことを個人的に決めていいのか?ということを、医者は決めなくてはならないからね。そう思う瞬間がある。この人はここまで、この人はもうちょっとっていう判断の基準がないからね。その瞬間が蓄積していくなかで、苦しいまま葛藤を続け、それを書くことで本になったりしていくんだね。

◯大塚篤司(おおつか・あつし)
京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医。がん治療認定医。信州大学医学部卒業で、夏川氏と同期。AERAdot.での連載をまとめた『「この中にお医者さんいますか?」に皮膚科医が……心にしみる皮膚の話』が8月20日に発売。

○夏川草介(なつかわ・そうすけ)
長野県で地域医療に従事。2009年、『神様のカルテ』で第十回小学館文庫小説賞を受賞しデビュー、シリーズ320万部のベストセラーに。信州大学医学部卒業で、大塚氏と同期。シリーズ4年ぶりの新作『新章 神様のカルテ』が19年1月に発売。

(構成/白石 圭)