そういって澤田さんが流した曲は、筆者と同世代の20~30代なら誰もが知っているであろうアニメ「デジモンアドベンチャー」の「Butter-Fly(バタフライ)」。

「よし、やるぞ!」と意気込んだのもつかの間、曲が流れると技のタイミングがあわない。経験者の先輩たちを見ると、意味の分からない単語を叫びながらオリジナル技を繰り出している。いや、聞いてないんですけどそんな動き…。

 残念ながら1曲目では、店長直伝のサンダースネイクとロマンスを繰り出すことはできなかったが、曲が終わった後には達成感を味わえた。踊ることで歌い手との一体感を感じられるのだ。もちろん、筆者の踊りは傍からすれば見るに堪えない出来だっただろうが…。

「最後に歌ってみませんか」と澤田さんが提案してくれた。大のカラオケ好きの筆者は「お願いします」と即答。リモコンで、歌い慣れた「Butter-Fly(バタフライ)」を選曲する。従業員としてはイマイチだったが、音程は外さない自信がある。ステージに駆け上がると、カフェ内の視線が集まるのを感じた。緊張感が高まる。

思えば、大人数を前に歌うのは初めての経験だ。マイクを握る手に汗がにじむ。手をズボンで拭っていると、曲のイントロが流れてきた。

「やばい…あがり症なの忘れてた」

 そんな臆病な記者のピンチを救ってくれたのは、コスプレ姿をした”元同僚”たちだった。手拍子やかけ声などを駆使して全力で盛り上げてくれる。その勢いはサビになっても終盤に差し掛かっても衰えない。いや、むしろ彼女たちの熱量に記者の声量が負けているようだった。気がつけば緊張も解けていき、調子に乗った記者はステージ上で元同僚たちをあおりながら歌っていた。まるでアイドル歌手にでもなったような気分だった。

 曲が終わると、息を切らして倒れこむスタッフたち。なりふり構わず、好きなことに夢中になる。これが「アニソンカフェ」の魅力なのだ。翌日、記者の全身がひどい筋肉痛に襲われたことは言うまでもない。

 池袋店の開店初日、店内は身動きが取れないほどの人でにぎわっていた。一人で来たという20代男性はアニソンカフェの魅力をこう語る。

「アニソンカフェはオタクに優しい。普通のカラオケだとアニソンは入れづらいですが、ここなら歓迎される。同じ趣味を持った人たちが集まるので、その場で意気投合することも多い。あの空間自体が、ハブのような役割を果たしているんです」

 仕事以外で友人をつくる機会はめっきり減った。そんな時には、心の友をアニソンカフェに求めてみるのもいいかもしれない。(AERA dot.編集部/井上啓太)

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