間辺美樹(まなべ・よしき)さん/2000年、東京都生まれ。5歳の頃より漢字に興味を持つ。小学4年で日本漢字能力検定を初受検(7級)し、高校1年の時に1級に合格する。その学習過程で編み出した漢字学習法を用いた漢字学習ソフト「熟語マニア」を作成し、情報処理学会主催の情報教育シンポジウムSSS2016にて研究発表したところ、最優秀発表賞を受賞。さらに、執筆した論文は論文誌「教育とコンピュータ」に学会初の高校生主筆論文として採録される。2018年、東京大学工学部の推薦入試に合格。現在は教養学部(理科一類)で学ぶ。東京大学クイズ研究会に所属</p>

<p>
間辺美樹(まなべ・よしき)さん/2000年、東京都生まれ。5歳の頃より漢字に興味を持つ。小学4年で日本漢字能力検定を初受検(7級)し、高校1年の時に1級に合格する。その学習過程で編み出した漢字学習法を用いた漢字学習ソフト「熟語マニア」を作成し、情報処理学会主催の情報教育シンポジウムSSS2016にて研究発表したところ、最優秀発表賞を受賞。さらに、執筆した論文は論文誌「教育とコンピュータ」に学会初の高校生主筆論文として採録される。2018年、東京大学工学部の推薦入試に合格。現在は教養学部(理科一類)で学ぶ。東京大学クイズ研究会に所属
この記事の写真をすべて見る

 東大推薦入試は、2015年に始まった。募集人数は全学部合計で100名程度。倍率は、平成31年度で2.8倍程度と決して高くないが、じつは狭き門である。これまで4度行われた東大の推薦入試において、合格者数は100名に達したことはない。初年度の合格者が77名ともっとも多く、今春の合格者は定員に大きく及ばずわずか61名だった。推薦入試は、東大で学び、研究するのにふさわしい学生を厳選するための試験であることが読み取れる。東大生の中でも選ばれた存在であるともいえる推薦入学者。クイズ本『東大 漢トレ』(朝日新聞出版)の著者である間辺美樹さんも、その一人だ。平成30年度の工学部推薦入試に合格した間辺さんは、「漢字」で東大合格を勝ち取ったという。知られざる推薦入試の実態について間辺さんに話を聞いた。

*  *  *

■漢字の学習方法を学会で発表して最優秀発表賞を獲得

 僕の趣味は漢字です。

 5歳ごろから漢字に興味をもちはじめ、小学4年生のときに、漢検7級を初受験し合格。その後、順調にステップアップしていくのですが、中学2年生で受けた1級にはまったく歯が立ちませんでした。

 高校1年生の3学期に、1級合格を果たすまでは猛勉強の日々を送りました。そのなかで気がついたことがあります。それは、一つひとつの漢字には意味があるというシンプルな事実でした。意味をもつ漢字が合わさって、別の意味を示す熟語ができる。そして、熟語の一部を変えることで、また別の熟語ができあがる。そうやって、“意味”を媒体にして、漢字のネットワークを作ることが、漢字を理解するために重要だと思い至ったのです。力技で記憶するだけでは、漢字の勉強にも限界があるということです。

 僕が考案した「勉強法」を父に話したところ、漢字学習ソフトウェアを作ったらどうかと提案されました。高校で数学と情報の教師をしている父の教えを受けながら、2ヶ月ほどで完成させたソフトが「熟語マニア」。同じ漢字を使った4つの熟語が表示され、そのうちの1つは誤り。漢字の意味をヒントに、その中から正しい3つを選ぶというクイズです。漢字がもつ意味とその重要性を学べます。

 例えば、お題「塗」を使った熟語の4つ「塗装」「塗布」「帰塗」「塗料」のうち、誤りはどれか。「塗」は「ぬる」という意味なので、「ぬる」と関係のない「帰塗」が間違いです。正しくは「帰途」です。ちなみに、『東大 漢トレ』にも、「いんちき熟語を探せ」というタイトルで同様のクイズを収録しています。

 父が教壇に立つ高校に協力してもらい、「熟語マニア」の学習効果を実証実験しました。「熟語マニア」の利用前後にアンケートをとり、漢字に対する意識がどのように変化したかを検証した結果、「意味」と「熟語」を学ぶことが漢字学習では大事だという意識が高まったことが確認されました。

 漢字の意味の重要性への気づきからソフトの制作、実験結果までを論文にまとめ、2016年の情報処理学会で発表しました。高校2年生の夏休みのことでした。うれしいことに、その論文で学会の最優秀発表賞を受賞できたのです。さらに、情報処理学会論文誌「教育とコンピュータ」に採録もされ、朝日新聞をはじめ、様々なメディアにも取材をしていただきました。

 そして、漢字に関する実績をアピールして東大の推薦入試に合格したのは、漢検1級合格からおよそ2年後のことでした。

■東大の推薦入試で何が問われるのか?

 東大に推薦入試が導入されたのは、僕が高校1年生の頃。もともと東大への憧れを持っていた僕は、漢検1級合格や「熟語マニア」の制作および論文の発表の実績をもって、推薦にチャレンジしようと決意しました。

 東大の推薦入試は、高校3年生の秋に始まります。

 まずは入学志願票や志願理由書などのほかに、各学部の推薦要件を満たすことを証明する書類が必要でした。工学部の場合には、「自ら問題設定を行い、かつ柔軟な思考ができること」「社会の多様な問題に対して関心を持ち、それを科学的なアプローチで解決することに興味を持つこと」などの4項目です。

僕の場合、証明書類として、前述の「熟語マニア」に関する論文などを添付しました。さらに、工学部の場合には、小論文も必要です。

 書類審査の第一次試験に合格すると、12月に面接試験が実施されます。面接はとても緊張しました。工学部では、5名の教授の前で45分間の問答が行われますが、全員が強面だったからです(笑)。見かけはともかく、面接は内容もハードでした。学校生活や将来の希望、提出した書類や小論文について掘り下げられ、矛盾があるとそこについても追求されます。かなりの事前の準備が必要ですし、学校の先生や家族を相手に徹底的に模擬面接で予習をしました。

 また、事前に準備できない質問があるので注意が必要です。アピールポイントとして英語をあげていたため、幼少期の英語教育について尋ねられました。答えている最中、「ここからは英語でお願いします」と指示され、質問も英語で行われたのです。なんとか受け答えできましたが、面接という非日常の場で咄嗟のことにも慌てない心の強さも大事だと思います。

 面接のポイントは、自分の考えやこれまでの実績、将来のビジョンを具体的に、自分の言葉で話すこと。当り前のようですが、それをやるためには自分に向き合って、掘り下げる必要があるので、しんどい作業であるともいえます。

 その後、センター試験を受け、8割程度といわれる基準点を超えると2月に晴れて合格通知を手に取ることができるのです。

■一芸に秀でた東大推薦合格者たち

 推薦で東大に合格した仲間たちを見ていると、やはり一芸に秀でている人物が多いと感じます。数学オリンピックなどの国際コンクールの受賞者や、模擬国連の出席者などがいます。

 工学部の同期でも、プログラミングに秀でていたり、ロボコンで優秀な成績を残していたりと、何かで突出した人物ばかりです。また、外国の高校との交流サークルを作ったり、学会で発表をしたりと、社会的な活動をしていた学生も多数います。

 僕の場合は、その一芸が漢字だったのですが、東大の推薦に合格できるまでに漢字への情熱を高められたのは、好きなことを思う存分にさせてくれる家庭環境のおかげです。あやとりや折紙などの遊びに興味をもったら、親もそれにトコトン付き合ってくれましたし、ピアノを弾きたいと思ったら、すぐにレッスンに通わせてくれました。両親は、時に見守り、時に細かく指導しながら、僕のやりたいことをサポートしてくれたのです。

 大学では、「熟語マニア」のブラッシュアップを研究テーマにしたいですし、外国人が漢字を効率よく学習するためのメソッドを考えてみたいとも思っています。漢字はライフワークなので、今後も関わり続けていきたいですね。(取材/構成・星政明)

暮らしとモノ班 for promotion
【6月26日(水)23時59分終了!最大19%OFF】いつもAmazonで買っている水やドリンクがもっとお得に!「飲料サマーセール」