私がひきこもったきっかけは、そもそも兄と父の関係が悪く、その反動で兄から私は「お前は軟弱者だ」などとよく言われました。いまから考えればたいしたことがない話ですが、長く続く威圧的な言動によって「家に居場所がない」と感じるようになりました。

 そんななか中学時代、私はテストでのカンニングを見咎められ、それを機会にクラスの人たちが自分をさげずんでいるのでは?と邪推したのが対人恐怖のきっかけなんです。

 学校と家に居場所がない。そのストレスによって、自分が醜いという強い妄想(醜形恐怖)に捉われ始めます。当然、対人恐怖もありましたし、当時の私は病的でした。

「オレを見たらみんな逃げるんだ」と私が言うと、両親は「そんなことはないよ」と言ってくれるのですが、妄想が否定されるほどに自分の醜形に確信を深めていきました。

 そんなときに救われたのがセラピストとの出会いです。その先生は、私の話をさえぎらず、否定せずに聞き、最後に「つらいでしょうね」と言ってくれたんです。最初、私はその先生も信じてなかったんです。どうせオレを説得する気だろう、と。でも、説得はせず「つらさを軽減できる方法を探りましょうか」と言ってくれました。

 そこからですね、徐々に変わったのは。世の中いろいろな人がいるなぁと。

 もちろん、すぐに対人恐怖は抜けませんでしたが、頭のどこかで「わかってくれる人がいる」と思えたんです。いま現在、さまざまな研究者の人などにインタビューする活動をしていますが「人と出会うことでワクワクする」という経験を積み重ねています。

 苦しくても「この世に生まれた自分を殺したい」とまで思わなかったのは、苦しさに共感してくれた人と出会えたからだと思うんです。

――なるほど。ちなみに、ひきこもりのきっかけとなったお兄さんとの関係は今ではどうでしょうか?

 それはもう大人の付き合いですよ。おたがいに会っても「どうも」「どうも」と礼儀正しく、サラリーマンどうしみたいな深入りをしない関係です(笑)。

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ひきこもり経験を救ってきた“手法”