原田隆之(はらだ・たかゆき)/1964年生まれ。一橋大学大学院博士後期課程中退。カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校大学院修士課程修了。保健学博士(東京大学)。法務省、国連薬物犯罪事務所、目白大学等を経て、2017年から現職
原田隆之(はらだ・たかゆき)/1964年生まれ。一橋大学大学院博士後期課程中退。カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校大学院修士課程修了。保健学博士(東京大学)。法務省、国連薬物犯罪事務所、目白大学等を経て、2017年から現職
(写真はイメージ/Gettyimages)
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 女性を、性欲を満たすためのモノのようにみてしまう「性依存」。ほかの依存症と同様、ただ「がまんすればいい」ではすまされない。その治療はどのようにおこなわれているのか。10年以上にわたって性依存の患者を治療してきた、筑波大学人間系心理学域教授の原田隆之氏に、治療の具体的な進め方を聞いた。

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 依存症全般にいえることですが、本人は「意思の力が弱いのが原因。だからがまんすれば治る」と思い込んでいます。しかし、性依存なら、意思の力が性的なものに「乗っ取られ」ており、本人の意思の力だけでは太刀打ちできないため、「治療」が必要なのです。

 私は性依存に対して、認知行動療法を中心に治療しています。女性を性の対象としかみない、モノのようにみてしまうという認知のゆがみに対して、改めようという気持ちがあれば、それを行動に置き換えないといけません。そこで痴漢や盗撮などの問題行動をやめるためのプランを練り、実践してもらいます。

 具体的には、治療のために私が開発したワークブックを使い、性依存の患者さん同士で話し合うグループセラピー(集団療法)で進めていきます。患者さんに最初にやってもらうのは、生活のスケジュールを決めることです。24時間、何も予定がないブランクの時間や、一人で長くいる時間をつくらないようにします。

 これまで、意識的にブランクの時間をつくって、駅や住宅街をうろついて、痴漢や盗撮を重ねてきたため、スケジュール管理でこうした時間をなくしてしまうわけです。スケジュールは家族とも共有して、守れているかどうかチェックしてもらいます。これでできた時間を家族団らんや自分のキャリアアップ、あるいは音楽を聴いてリラックスする時間などに使い、生活を立て直していきます。

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グループセラピーが患者に与える「安心感」