一方で、過去の著作物の公共財産化がさらに遅れるという大きなデメリットもある。それは、著作者や後世の人々にとって本当に幸せなことなのだろうか?
写真の世界でも、プロアマを問わず、目の前にあることを写真に記録し、残したいと思っているからこそ、写真による表現活動を続けているのではないだろうか。
「著名な人であっても、死後50年の段階で、その作品がそれなりの規模で流通しているケースは少ない。むしろ大半の作品が忘却と散逸のリスクにさらされます。著作者が生きているうちはその権利をしっかりと守る必要があります。しかし、いつかは権利が役割を終えるときは来ます。そのときには、あるだけで邪魔にしかならない権利になる前に、その枷を外して作品を後世の人に残しておくことも大切ではないでしょうか」(同)
そこで福井弁護士が提案するのは、クリエーターにとっての“終活”だ。
「自分が死んで作品が忘れ去られてしまうくらいなら、死ぬ前に遺書代わりに、死後に写真などの作品を人々がどう扱っていいのかを意思表示しておくのです」
福井弁護士は、著作物の適正な再利用の促進を目的として、著作者が自らの著作物の利用を社会に許可する意思表示を手軽に行えるようにするための国際的プロジェクト「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」を例に挙げる。作品の複製、頒布、展示、実演を行うにあたり、「何の制約もなく自由に使える」「著作者名を明記する」「非営利目的での使用に限定する」「改変は禁止する」というように、自分がその作品をどう扱ってほしいかを簡単なマークで意思表示することが可能となる。
また、信頼できるクラウドストレージサービスに写真をアップロードし、「ここにある写真は私の死後、自由に使ってください」「クレジット表記をお願いします」などと記しておくのも一つの方法だろう。紙焼きの裏に書き込んでおくというアナログ的手法も、手間はかかるものの案外効果的かもしれない。