日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、お酒と癌や認知症、労働時間などの関係性について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。
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いよいよ今月で「平成」は終わりを告げ、「令和」という新しい時代がやってこようとしています。
新元号の「令和」は、最古の元号である「大化」から数えて248番目。今までの漢文で書かれた中国の書籍からの引用とは異なり、今回初めて日本最古の歌集である万葉集の梅の歌から引用されたようですね。
さて、4月に入り、お花見や歓迎会が続きアルコールを飲む機会も多いという方も多いのではないでしょうか。今回は、アルコールについて、興味深い論文をご紹介しながらお話したいと思います。
その前に、お酒の歴史から。記録の上で最も古いお酒だとされているのは、なんと紀元前4000年頃メソポタミア地方のシュメール人によって飲まれていたワインだそうです。次に古いとされているのがビール。紀元前3000年頃にメソポタミア地方で作られていたことが記録に残っています。
一方、日本酒の起源は、残念ながらはっきりしていません。日本酒の元となるお酒が700年代に造られていたことは記録に残っていますが、稲作が中国から伝わった後に自然発酵によるお酒が誕生したのではないかと推測されています。
摂取したアルコールは、体内でどう変化していくのでしょうか。飲酒してから1~2時間でほとんどのアルコールは体内に吸収され、肝臓へと運ばれます。肝臓内でアルコールは、アルコール脱水素酵素(ADH)によって分解され、悪酔いや頭痛、動悸の原因となるアセトアルデヒドに酸化されます。その後、主に2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)によって酢酸へと分解され、血液により全身へと運ばれます。そして筋肉や心臓で水と二酸化炭素に分解され、これらは汗や尿、呼気中に含まれて体の外へと排出されるのです。
アルコールを飲むと顔が赤くなったり、動悸・頭痛を生じることはありませんか。これは、アセトアルデヒドを素早く分解する「ALDH2」という酵素を持っているかどうかに関わっています。「ALDH2」の働きが弱い、または「ALDH2」を持っていないと、アセトアルデヒドが貯まりやすく、悪酔いや頭痛、動悸を引き起こしてしまうのです。「お酒に弱い体質」と呼ばれるゆえんです。
「ALDH2」を持っている・持っていない、つまりお酒に強い体質・弱い体質であるかどうかは、遺伝子によって決まります。つまり、「ALDH2」を作る遺伝子を両親から受け継いでいるかどうかなのです。ちなみに、4割ほどの日本人は、「ALDH2」を持たないか、その働きが弱く、アセトアルデヒドが貯まりやすい体質であることがわかっており、また、「ALDH2」が完全に欠けている人は、いくら訓練してもお酒に強くなることはないのです。