今年2月末に行われた米朝首脳会談は、何の合意も共同会見もないまま終わった。どうしてこうなったのか、はっきりしたことはわからない。
ただ、北朝鮮とアメリカ双方とも、戦争を回避しようと考えるのであれば、交渉をまとめるしか道はない。日本政府は、アメリカがいい加減な妥協をしなくて良かったと思っているようだが、それは事の本質を見誤った判断である。
私は、オバマ大統領時代から、一貫して、米朝は妥協するしかないと見ている。
日米韓だけではなく、金正恩朝鮮労働党委員長の立場に立って考えれば、そのことは明らかだ。
はじめに、私が、2013年4月に「北朝鮮を見誤る米日」というタイトルで某週刊誌に書いたコラム記事を紹介しよう。当時としては、かなり思い切った見方だったかもしれないが、この記事から6年近く経った今日、ようやく、この基本的な構造が誰にでも理解できるようになったと思う。
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北朝鮮はいつミサイルを発射するのか。誰にもわからないが、実は、それはあまり重要なことではない。
「金正恩は世界の常識を理解しない人間だから、彼の行動は合理的に予測できない。それが最大のリスクだ」という論評をよく聞く。その前提となっている世界の「常識」とは何か。平たく言えば、「国際社会を仕切るのは、基本的には戦勝国であり国連安保理における拒否権を持つ5大国(米、ロ、中、英、仏)である。5大国以外は核保有は許されず、それに反する行動をとる国は国際法違反のならず者である。ならず者には国際社会が一致して制裁を与えることにより、その国を矯正して国際秩序を守らなければならない」というものだ。この「常識」に挑戦するものは最終的には抹殺されても仕方ない。イラクのフセイン政権がその例だ。
一方、少しだけ想像力を働かせて金正恩の思考を推測してみると別の論理が見えてくる。「北朝鮮も米国も平等に主権国家である。アメリカが核を持つ権利を有し、北朝鮮にその権利がないのは不公平だ。米国は、何の根拠もなくイラクのフセイン政権を倒した。いつ北朝鮮を攻撃してくるかわからないならず者だ。ならず者に対する正当防衛の手段として核を持つのは当然の権利だ。インド、パキスタン、イスラエルも持っている。北朝鮮に核放棄を求めるなら米国も核を放棄せよ」というのが金正恩の理屈だ。