紀伊國屋書店は、個人的には特別な思い入れのある書店です。

高校時代に演劇部に入って、芝居の面白さに開眼したのですが、福岡の片田舎では、そうそう観に行けるわけではない。当時は演劇関係の雑誌と言えば「新劇」と「テアトロ」「悲劇喜劇」という劇評と戯曲掲載を中心とした評論誌しかなかったのですが、その巻頭に載っているわずかな舞台写真を眺めては、どういう芝居か妄想を膨らませていたものです。

中でも新宿紀伊國屋ホールは、当時大人気だったつかこうへい氏の常打ち小屋だったこともあり、一種聖地のように感じていました。

ちょうどその時期、福岡市内に紀伊國屋書店が出店してからは、折りを見ては汽車で1時間半かけて通ったものです。気分的には、紀伊國屋が東京と福岡をつなぐパイプをしてくれていたのでしょう。

上京してからも勿論通っています。ビルひとつが丸々本屋なんて田舎では想像できなかった。しかもその中に演劇のホールがある。自分にとってのある種の理想郷ですよね。

先日も、2階の文庫売り場をチェックしていました。5月に講談社文庫から『髑髏城の七人』という小説を出したのを思い出し、その様子を見ようと棚に向かいました。

6月の新刊も出てますし棚差しになってるかなと恐る恐る見ると、まだ平台にあり、しかもオススメの手書きのポップがついていたのです。

そういう扱いになるとは全然期待してなかったので、不意をつかれましたが、嬉しかったなあ。

小説は今も月刊誌で連載しているのですが、慣れぬせいか毎回手探りで書いている状態で、想像以上に時間がかかり青息吐息です。向いてないかもとも思ったのですが、思い入れのある書店でこういうことがあると、小説を書いてよかったなと思えますね。

文庫の担当の方に心でお礼を言って、でもあんまりジッと見てるのも変なので、そそくさと立ち去りました。

[AERA最新号はこちら]