感極まって知る私も含めて「互助会員」(イラスト:サヲリブラウン)
感極まって知る私も含めて「互助会員」(イラスト:サヲリブラウン)
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 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 昨年末、ポッドキャスト番組「OVER THE SUN」の番組本が発売され、1月に書店イベントが2度ほど催されました。どちらも大盛況で、ホッと胸を撫で下ろしております。

 番組では、リスナーを「互助会員」と呼んでいます。困ったときにはお互い様とメールで助け合うリスナーは、まるで互助会のよう。私も自然に「互助会員のみなさま」と呼びかけるようになりました。書籍のタイトルにも、「公式互助会本」という言葉が含まれております。

 書店イベントは、互助会員のみなさんにお目にかかる数少ないチャンスです。対面のサイン会も徐々に増えてきて、生活が少しずつ以前に近い状態に戻るのを感じます。

 イベント終盤のサイン会では、感極まって泣いてしまう方が少なからずおります。今回もそうでした。宅配便の受け取り以外でサインをするのは40歳過ぎてからだった私としましては、「落ち着いて。目の前にいるのはただの中年女よ」と言いたくもなるのですが、そういうことでもないのだよな。10年近くこういう仕事をしているのだから、そろそろ逃げずにちゃんと役割を引き受けたほうがいい。着ぐるみの中の人が狼狽(うろた)えるのは、無粋というものです。

 過去、私も好きなアーティストのサイン会で緊張し、声がうわずったことがあります。当時、先方もいまの私と同じような気持ちだったのかもしれません。私と違い、彼はちゃんとアーティスト然とした態度で接してくれましたが。

 なぜ、当時の私が感極まったのかを改めて考えると、アーティストの作品に鼓舞されたり、つらいときに慰めてもらったりした記憶があるからでした。ということは、私のサイン会参加者のなかにも、そういう気持ちの人も多少はいたのではないか。つまり、私がしゃべったり書いたりしたものが、他人様の役に立ったということです。ありがたいなあ。

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