ライザップの急成長のからくりは積極的なM&A戦略である。2016年からの2年間で約50社を買収した。しかも買収の仕方が独特だった。業績が悪化した会社を安く買い集めたのだ。

 一般的な企業買収は会社の純資産に「のれん」といわれるブランド力や技術力などの目に見えない資産価値を上乗せして買収額をはじき出す。ところがライザップの企業買収は純資産よりも安い価格で買収したものが多かった。被買収企業は純資産よりも安くてもとにかく早く売ってしまいたい、という心理で売ったとみられる。ライザップは買収企業を再建して、儲かる会社に蘇らせる、という触れ込みで買収を続けたが、実際は極めて再建が難しい会社ばかりを買っていたことになる。

 しかし純資産よりも安く買えば会計上のメリットがあったのだ。ライザップが2016年3月期から導入した国際会計基準では「負ののれん」といわれる純資産よりも安く買った分を「利益」としてみなし、利益計上できるのだ。ただこの「利益」は実際に会社にお金が入ってきたわけではなく、帳簿上の評価益に過ぎない。この「負ののれん」発生益は2017年3月期に58億円、2018年3月期に87億円に達し、営業利益の過半を占めていた。「負ののれん」発生益を使って見かけ上の利益を増やしていたのだ。

 粉飾決算を指南したとして有罪判決を受けた元公認会計士の細野祐二さんは早くからライザップの「負ののれん」発生益の問題点を指摘していた。アナリストやマスコミ関係者を対象に細野さんが開いた7月の勉強会ですでにライザップの経営について警鐘をならし、「いずれ資金繰りが厳しくなる」と予測していた。その後の展開は細野さんの予測通りとなった。

 カルビー会長から6月にライザップに代表取締役として招かれた松本晃氏はさすが「プロ経営者」だった。夏に買収企業の現場を回り、その経営実態を見て、M&A戦略を止めさせた。松本氏にしても、会計の専門家である細野氏にしてもライザップの経営の危うさを素早く見つけることができたのだ。

 一方、年内に解散される経営諮問委員会は2016年9月からの2年余り、ライザップの積極的なM&A戦略の続行を許した。ライザップ関係者は「メンバーの皆さんはとても忙しく一堂に会することがなかなかできなかった。瀬戸健社長が個別に会ってアドバイスを受けることが多かった」と言う。今期の赤字見通しを発表した11月中旬以降、経営諮問委員会委員の立場から逃れようとしたメンバーもいたようだ。

 コーポレートガバナンスの強化が謳われ、多くの会社が社外取締役を採用したり、経営諮問委員会を設置したりしている。その際に大学教授や元官僚などが就任する例が多い。それは世間的な信用力を高めようとするためである。だがある企業経営者は「大学教授や元官僚は大所高所の意見を述べてくれるので、参考にはなるが、実務には疎く、経営に対する監視機能が果たせるかというとそうでもない」と言う。

 いわゆる「有識者」の採用は、コーポレートガバナンスの強化に取り組んでいるという体裁を整えることはできるが、経営に対して本当に耳の痛いことを指摘してくれないのかもしれない。ライザップはその落とし穴にはまってしまったと言えるのだ。 (Gemba Lab代表・安井孝之)