そんなわけだから、原さんの髪の毛があまり多くなさそうなこと、割とすぐに気づいた。激しく痩せている人ばかりの芸能界で、原さんはぽっちゃりめに見える。ダブルで「よいなー」と思った。だって髪の毛少なめでぽっちゃりめは、まさにシニア女性のリアル。編集長としての6年が、私にこう叫ばせる。彼女は、私たちだ、と。
「鈴木家の嘘」の冒頭、長男が自室で首を吊るシーンが映る。観客にすべてをわからせた上で、原さん演じる悠子が買い物から帰ってくるシーンになる。食卓の上のラジオをつけ、昼ご飯の支度をする。毒蝮三太夫の声。悠子は時折、フフフと笑う。
後半、悠子がその日を振り返るシーンがある。「ラジオに夢中になっていた」「いつも毒蝮さんを聞いていること、あの子(長男)は知っていた」。そう語る。確かに料理をするならテレビよりラジオだし、毒蝮さんは笑えてちょっとしんみりさせてくれる。でもこの台詞が響いたのは原さんだからであって、たとえば黒木瞳では、そうはいかない。
悠子はオムレツを食卓に並べ、2階に向かって「こういちー」と声をかける。それからトントンと階段を上がる。何もかもが、しっくりくる。
部屋のドアを開ける。首を吊った浩一を発見する。助けようとし、倒れ、意識不明になる。目を覚ましたのは浩一の四十九日の日。息子の死を忘れている。そこから家族(夫と娘。加えて悠子の弟)の嘘<浩一はアルゼンチンで働いている>が始まる。
悠子の夫(岸部一徳)と娘(木竜麻生)が浩一について告白するシーンがある。自分は彼をこうとらえていた。だからこう行動した。そう語る。なるほどそうだろうと納得し、同時に心が痛む。
悠子は違う。理屈ではなく、感情なのだ。嘘がバレてからの原さんがすごかった。喜びから一転、自分を責めに責め、挙句にある行動に出る。その行動に終止符を打つのは結局、悠子の生命力だった。圧巻のシーンだった。それがあるからラストに向け、見る側も悠子と心を一つにできた。