星稜・奥川恭伸 (c)朝日新聞社
星稜・奥川恭伸 (c)朝日新聞社

 11月9日から6日間にわたり行われた第49回明治神宮野球大会。高校の部は来年春の選抜大会の前哨戦、大学の部は卒業する4年生まで含めたチームの総決算とそれぞれ意味合いは異なるが、連日熱戦が繰り広げられた。そこで光るプレーを見せた選手を来年のドラフト候補を中心に紹介したい。まずは高校の部からだ。

 今大会最も高い注目を集めたのが星稜(石川)のエース、奥川恭伸だ。今年の春、夏の甲子園にも主戦として出場し、9月に行われたU18アジア選手権でも2年生で唯一代表メンバーに選出されている本格派右腕である。その前評判通り、今大会でも見事なピッチングを見せた。初戦の相手は中国大会で全国屈指の好投手である西純矢(創志学園)を攻略した難敵広陵(広島)だったが、初回から140キロ台後半のストレートと手元で鋭く変化するスライダー、フォークを武器に三振を量産。7回を投げて被安打3、11奪三振、無四球というほぼ完璧な内容で完封して見せたのだ(試合は9対0で7回コールド)。続く高松商(香川)戦でも7回を1失点(無失点)。決勝の札幌大谷(北海道)戦は先発を回避して1対2で敗れたものの、リリーフで打者4人から3三振を奪った。改めて今大会の成績をまとめると15回1/3を被安打7、26奪三振、2四球、1失点(自責点0)となる。この時期にここまで安定した投球を見せられる2年生投手はそうはいない。

 夏の甲子園と比べて大きく進化したのが変化球だ。スライダーは少し変化が大きいものの、腕を振って投げられるため打者は思わず手が出る。130キロを超えるスピードのあるフォークもストレートと同じ軌道から落ち、二つの決め球があるのは大きな武器である。カウントをとるカーブ、チェンジアップの質も高い。常にストライクが先行する制球力も持ち味で、初戦では7回で11三振を奪いながら球数はわずかに78球だった。

 一つだけ気になるのが下半身の柔軟性が感じられないことだ。ステップの幅が見るからに狭く、横から見るとどうしても上半身の力に頼っているように見える。それでも夏に比べると全体的にリズムがゆったりして、下半身が使えるようになってきたのはプラス要因だ。このまま故障なく順調に成長すれば、来年のドラフトでは1位で指名される可能性が高いだろう。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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