ちなみに、厚生労働省の「平成28年度 労働者派遣事業報告書の集計結果」によれば、1年以上の派遣労働となる対象者は102万2866人、うち3年見込みが3万5881人だった。3年見込みのうち派遣先への直接雇用の依頼があったのは4180人で、実際に雇用されたのは、わずか1824人。派遣からの直接雇用は狭き門だ。
派遣社員に関する労働法を調べた正則さんは、「3年経っても何も言われないまま。辞めてともさえ言われない。この派遣会社にいても先が見えない」と悟り、派遣を辞めた。
辞める手続きをするうち、雇用保険に加入されていなかったことが分かった。交渉すると派遣会社が遡って保険料を支払ってくれたが、市民税なども給与から天引きされておらず、4年間で総額20万円の税や保険料の自己負担分を支払うこととなった。
「給与明細をきちんと見ていなかったのは、うかつだった。ただ、月収14万円なのに保険料が引かれていたら、暮らしていけなかっただろう」と、身震いした。
それから半年以上、就職活動をしたが、辛酸をなめるような思いを味わった。ハローワークで見つけた企業の面接では、「食い下がってくるなら雇ってあげる。給与もそれなりに出すよ」と上から目線の言葉を投げかけられた。求人の条件には「勤務時間は8時間に残業が1~2時間。月給20万円以上」と書かれていた。屈せずに条件を聞いていくと、実際の拘束時間はもっと長く、夜勤もあることが前提だと分かった。何社受けても、経験のない正則さんの採用は見送られた。ぺーパードライバー状態でフォークリフトを扱える就職先は見つからなかった。
食つなぐため日雇い派遣も経験した。工場の現場で資材を運び、引っ越しの仕事する日もあった。1日8時間働いて9000円。日々、違う場所に派遣されることがストレスとなったが、行くしかない。もっと、経験を積んで付加価値のある仕事を覚えたい。そう思うと焦った。
流通業に強みのあるという派遣会社を探して得たのが、量販店の商品が置かれる倉庫での仕事だ。自宅から片道で約1時間、山奥にある倉庫では携帯電話の電波が届かない。最寄り駅から送迎バスが運行される。