すぐれた商品はいきなり誕生するわけではありません。そのためにはアイデアが生まれやすい環境、アイデアを拾い上げるシステム、アイデアを迷子にすることなくしっかりと形にする仕組みがなければ決してすぐれた商品をつくり上げることはできません。20代のジョブズは驚くほど革新的な企業が10年、20年後には夢も希望もロマンもないただの大企業になり下がる様子を見て、アップルはそんな企業にはしたくないと思い続けてきました。
そこから生まれたのが組織へのこだわりであり、「会社自体が最高のイノベーションになる」という考え方です。イノベーションに人を欠くことはできませんが、同時にいろいろなアイデアを生み育てることのできる組織や建物、文化をつくらなければ、イノベーションの大半は失われると考えていたのです。
「顔が見える100人以内のチーム」「メンバーが活発にコミュニケーションを交わすための職場環境づくり」など、ジョブズの先進的な組織哲学は、その後のITベンチャーにも受け継がれています。
ジョブズはたくさんのすぐれた商品をつくることで人々の生活を豊かにしてくれましたが、もしかしたらジョブズ最高の発明品はアップルという会社なのかもしれません。ジョブズがつくり上げたもの、それはすぐれた商品だけではなく、「イノベーションを生み続け、成長し続ける企業」そのものなのです。