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朝日新聞取材班が、森友学園、加計学園問題報道の「中間報告」として、『権力の「背信」――「森友・加計学園問題」スクープの現場』(朝日新聞出版)を出版した。
加計学園の獣医学部新設をめぐって、政治・行政の手続きは公平・公正に行われたのか。朝日新聞東京社会部デスクとして一連の取材に携わってきた西山公隆(現・文化くらし報道部生活担当部長)が、その取材の一端を紹介する。
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加計学園問題では、愛媛県今治市が公開した文書で、市の企画課長や課長補佐が2015年4月、「獣医師養成系大学の設置に関する協議」を目的に首相官邸を訪問したことがわかっていた。自治体の課長らが一大学の学部新設の件で首相官邸を訪問すること自体が異例なことだけに取材班はここに注目した。だが、面会の相手が官邸のだれだったのかは、その時点では確定的にはわかっていなかった。
だが、面会の事実関係は、取材班とはまったく無関係だったある一人の記者が聞き込んできた話から意外な展開をたどり、スクープに結びついた。
「ちょっといいですか。話があるんですが」
17年7月ごろ、社会部デスクだった私は、ある記者に声をかけられた。面識のある記者ではあるが、そのときは仕事で直接の関わりはなかった。
「いったいなんだろう」。記者の表情の真剣さに、私は社会部から少し離れた廊下に置かれたテーブルに移った。そして、記者が聞き込んできたという話に驚いた。
今治市の課長らが首相官邸を訪れた際、面会には加計学園の事務局長が同行し、しかも、面会の相手は柳瀬唯夫首相秘書官(当時)だったというのだ。一学校法人の学部新設という話に、当事者中の当事者である学園の幹部が同行し、しかも、首相と日常的に接し、側近中の側近である首相秘書官が官邸で会っていたとなれば、大きなニュースだ。
「そんな話があるのだろうか」。私の心には一瞬、そんな思いもよぎったが、目の前にいるこの記者の人脈、信頼度からして間違いない話だと直感した。取材班は早速、この話の裏を取る取材を始めた。