北原みのり「韓国の女は、立ち上がった」

週刊朝日
 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、女性嫌悪社会に対して抗議を表明する韓国の女性たちを紹介する。

*  *  *
 今年6月、韓国でマーズが流行したとき、激しく叩かれた女性たちがいた。マーズ感染者に接触した可能性があったにもかかわらず、隔離要求を拒否したのだ。彼女たちの顔はネットでさらされ、ありとあらゆる攻撃を受けた。

「攻撃」と一言で言うのは容易(たやす)い。でも女に向けられる攻撃が、いかに激しいものか、恐らく男の人たちには、想像しにくいのではないか。とはいえ、わかってもらうために、具体的な攻撃内容について、詳細に記すのは難しい。なぜならネット上の攻撃は、公開で性暴力を受けているようなものと等しいからだ。肉体が傷つくわけではない。だけれど、確実に、損なわれる。時間が奪われる、人生を邪魔される、私の真ん中にある尊厳を、攻撃される。私自身も、ネットでの暴力の対象にされることがある。だからよくわかるのだ。彼女たちが、どんな攻撃にさらされたのか。その痛みが、どのようなものか。

 ちなみに、この手の話をリベラルを標榜する男性数人に話したところ、「具体的に何をされたの?」「何回やられたの?」と聞きたがる人が多くて驚く。偏見で語るけど、男性は99%、具体的なデータを聞きたがる。「怖かったって言われても、それは個人的な感覚でしょう?」と言い切り、「で、何回? 何人くらいに?」と、真顔で言うのだ。びっくりぽんだよ。1回だろうが、100回だろうが、痛いものは痛い。どんな言葉だろうが、自分を侮辱する言葉には、刺されてしまうのだ。

 さて、韓国の女たちは、彼女たちに対する過剰な攻撃に、黙っていなかった。彼女たちの行いが正しくなかったとしても、例えばもし、隔離を拒否したのが男性だったら? ここまでされただろうか? こんな目にあっただろうか?

 そのようなことがネット上で語られるようになり、あっという間に今年8月、メガリアというサイトが立ち上がったのだ。メガリアとは、メルス+イガリアの造語だ。韓国ではマーズをメルスと呼ぶ。またイガリアとは、ノルウェーの作家、ガード・ブランテンバーグのフェミニズムSF小説「イガリアの娘」からきている。小説では、男女のジェンダーが入れ替わり、男性が抑圧された世界が描かれている。

 ……と言うと、またまた「男性差別か?」と過剰に反応したがる人がいるので、念のために言っておくが、メガリアは男性差別が目的ではない。女性が差別されている現実を「男性にわかりやすく説明する」ために、立場を入れ替えるようなことを敢えてする。いわば、女性嫌悪社会の鏡のような役割を果たしている。

 メガリアのサイトを見ると、まずこういう一文が目に入ってきて、泣ける。「大韓民国の女性嫌悪がなくなる日まで、メガリアの努力は続きます。(女性嫌悪に)敏感で、疲れ生きる人々が、これ以上、敏感になり、疲れないために!」と記されている。そしてこうも記されている。あなたの変化を、サポートするよ! と。

 韓国の女たちは立ち上がった。日本はどうする。

※週刊朝日 2015年11月27日号
サイトで見る
続きを読む