「義にのみ之(こ)れ与(とも)に比(した)しむ」と。「ひとえに正しきもの、理にかなっているものにこそ従うべきである」という意味です。
スマホの落下、デパートではぐれたくらいのことは、罪を償わなくてはならないほどの非礼ではありません。相談者さんは素直になれない妻の態度を「良い」だの「悪い」だのと固執することなく、どうか笑って済ませられる父親になってください。難しいかもしれませんが「良い」「悪い」ではなく、「正しさ」に対して柔軟に対応できる人間になれば、人生のどんな局面も楽しめると思います。
妻の性格の改善を試みたり、娘さんの将来を心配したりする相談者さんは、とてもまじめな性格なのですね。論語にはこんな言葉もあります。
「直(なお)きを挙げて諸(こ)れを枉(まが)れるに錯(お)けば、能(よ)く枉(まが)れる者をして直(なお)からしむ」(顔淵第十二)と。
これは、「まっすぐな材木を曲がった材木の上に置けば、下の曲がった材木が押されてまっすぐになるように、正しい人間を曲がった人の上に置けば、曲がった人は自ずと正しくなり心服する」という意味です。
相談者さんが大切にしている「ごめんなさい」「ありがとう」という言葉を「マナー」ととらえるなら、それは実践して初めて身につくものです。まずは相談者さんが率先して実践することを提案します。娘さんは自発的に「感謝」と「反省」を体得することになり、そんな夫の姿を見て妻も変わってくれるかもしれません。
【まとめ】
素直に謝ることより、「何に対して謝るのか」本質をつかむことが大事。父親がまず正しいマナーを実践しよう
山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『ステップアップ 0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。母親向けの論語講座も。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。