【解説】
 お答えします。相談者さんは妻に「言い聞かせる」必要も、「割り切って我慢する」必要もありません。相談者さんご自身の考え方を変えたほうがいいでしょう。娘さんに素直に「ありがとう」「ごめんなさい」を言える人になってほしいのであれば、自分が実践すればいいのであって、妻にまでそれを強要すべきではありません。

 2500年前の『論語』は、優れた「リーダー育成本」としても知られていますが、そのなかで孔子は、人の上に立つ者のあるべき姿を、こう説いています。

「子曰わく、君子の天下に於(お)けるや、適(よ)きも無く、莫(あ)しきも無し」(里仁第四)

「人格者は世の中のあらゆる物事に対して、決して、こうしようと固執することなく、また絶対にこうしないと決めることもない」という意味です。

 世の中には、決して「これが正しい」という基準はありません。時代や地域、その時の状況によって「正しさ」は常に変化します。一家を支える父親は、「こうしなければ」と物事に固執することや、忌み嫌うこと、つまり先入観や偏見をもってはいけないと思います。

 たとえば海外では、「日本人はすぐ謝る」と言われています。テレビでもよく、企業のトップや政治家、タレントの謝罪会見が放送されますよね。でも海外メディアがこのような「謝罪」をわざわざ報じることはあまりありません。相談者さんが妻に求めている「素直な謝罪」や「反省する態度」は、日本人にとっては美徳なのかもしれませんが、海外では自分の過ちを認めると、罪を償わなければなりませんから、そうやって必ずしも人生を暗いものに必要もないと私は思うのです。

 それよりも「ありがとう」は、何に対しての「感謝」なのか。「ごめんなさい」は、何に対しての「謝罪」あるいは「反省」なのか。こうした物事の本質をしっかり自覚することこそ、娘さんの教育に必要なのではないでしょうか。

「君子の天下に於けるや~」の言葉の後には、こう続きます。

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