5教科の勉強は自宅でもYouTubeで分かりやすく学ぶことはできますが、運動に関しては手間と時間とお金をある程度かけないと機会を得られません。球技では仲間も必要です。

 しかし残念なことに、水泳ひとつとっても学校でできる時間が以前より限られてきている。昼休みや業間休み、放課後も、学校で体を動かす機会が減っています。学校は体を動かす貴重な機会であることを、学校の先生たちがどれくらい認識しているか。そこが心配ではあります。

 子どもの体を育む場を、最低限学校が保障してあげる必要があります。それ以上を目指すのであれば習い事でよいと思います。

 学校のプールは活動の多様性を担保する意味でも重要です。学校プールが少なくなったり、廃止されたりしている現状はとても心配です。学校の先生たちの負担を考慮したうえで、できる限り授業が続けられる方向になることを願っています。

水難事故を回避するために経験させたいこととは

――昨年の水難事故が過去10年間で最多という警察庁のデータもあります。着衣泳など子どもが経験しておくべきことはありますか。

 泳げるようになれば水難事故が回避できるとは考えていません。事故データには異常気象増加の要素も考えられますし、そもそも泳げるからといって助けに入ってその人まで巻き込まれるということもあります。

 ただし、着衣泳の経験や川や海での事故や事故防止の知識があれば、防げる事故はあると思います。泳力の向上という視点ではなく、服を着たまま泳ぐことの難しさや水辺での事故について知る、予防に関する知識を学ぶ。そのために着衣泳をリアルなプールで行うことは必要だと思います。

 自然環境を知ることも大事です。川は流れがあって冷たいですし、海は波があります。そういうところに親が夏に連れて行って経験させることも大事ではないでしょうか。波のないプールとは違い、自然環境はどうなっているのか。それも家庭学習の一つといえるでしょう。

 よく「おまえはこんなこともできないのか」「父さんが子どもの頃はこんなことできだぞ」と自慢する親がいますが、子ども時代に経験していないと分からないことはたくさんあります。子どもの経験不足は親や社会といった大人の問題なのかもしれません。

(取材・構成/大楽眞衣子)

公立小中学校のプール授業が大幅に減少、廃止の流れはなぜ止まらない?【専門家に聞く】
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大楽眞衣子
大楽眞衣子

ライター。全国紙記者を経てフリーランスに。地方で男子3人を育てながら培った保護者目線で、子育て、教育、女性の生き方をテーマに『AERA』など複数の媒体で執筆。共著に『知っておきたい超スマート社会を生き抜くための教育トレンド 親と子のギャップをうめる』(笠間書院、宮本さおり編著)がある。静岡県在住。

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