こんな笑えない話があります。逆上がりができないある児童が、先生の熱血指導で放課後も練習していました。やっと逆上がりができるようになって、先生が「よかったね」と喜ぶと、その子は「先生よかった! もうこれで逆上がりしなくていいんだね」と言ったそうです。結果だけを求めると、こんなことも起こり得るわけです。

広がる運動が「できる子」「できない子」格差

――いまの子どもたちは親世代が子どもの頃と比べて外遊びが少ないです。やはり運動不足なのでしょうか。

 最近は運動が「できる子」「できない子」という差がはっきりしています。

 以前なら、とくに民間のスポーツクラブに通っていなくても、「泳げる」「走るのが得意」「サッカーが得意」とそこそこ運動できる子たちが一定数いました。それは授業や業間休み、昼休み、放課後といった日常でたくさん運動していた子たちでした。校庭や公園、野山で体を動かしているうちに自然と育まれた体力です。

 いまはゲームがあり、いろんなツールがあり、インターネットにつながっているのが当たり前の時代です。だから子どもたちの余暇の過ごし方が不活動になりがちでなんです。

 さらに拍車を掛けるように、親が見ていないところで「子どもを1人で遊ばせちゃいけない」という世の中の雰囲気がある。かと思えば「子どもの声がうるさい」とクレームが来る。公園でのボール遊びは禁止され、路上に石などでコートや印を描くことすら難しい。こういうことが社会で標準化され、かつては社会が許容していたことが通用しなくなりました。

 いまはもう、大人が「この時間までここで思いっきり遊んでいいよ」とお膳立てしてあげなきゃならない時代です。

 大人がお膳立てしてあげられる家庭の子たちはいいのですが、そうでない家庭の子たちは家でゲームをするようになり、体力レベルがぐっと下がっています。昔以上に家庭環境が子どもの育ちに影響しやすくなっているというのが現実です。

お金を払って子どもの運動環境を整える?

――中学校での水泳授業を廃止した学校もあります。水泳授業の減少だけでなく、運動会が半日になったり、マラソン大会がなくなったりして学校での運動の機会も減っているようです。

 学外が不活動な環境になっているので、こういう時代こそ、義務教育である小中学校が運動面で担うべきことは増えてきているのではないかなと思います。公教育で運動の機会が十分に得られないとなると、各家庭がお金を払って意図的に子どもの運動環境を整えてあげないといけなくなります。

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