『はなちゃんのみそ汁』に教えられて
――息子さんは中学受験をされるのですか?
その予定です。だから仕事が終わって家に帰ったら、丸付けの仕事もあるんです(笑)。中学受験の問題は難しいので、丸付けも本当に大変です。
将来的に、息子は関西以外の大学に行くかもしれませんし、高校で家を出る可能性だってないとは言えない。
そう思うと、どんなに暑くてもグラウンドに行くし、どんなに面倒でも丸付けしちゃうんですよ(笑)。
――息子さんの巣立ちの日を思うと、やはりさびしいですよね。
息子の成長は楽しみで楽しみでしかたがないんだけれど、怖い気持ちはやはりあるんです。
乳がんで母を亡くした5歳の少女が、母との約束を守りみそ汁を作る物語『はなちゃんのみそ汁』の著者・安武信吾さんは、ぼくのシングルファーザーの先輩であり、人生の大先輩なんです。そんな信吾さんにいつも、「清水君、子どもが育つのはあっという間だからね」って言われるんです。
はなちゃんが二十歳になったとき、信吾さんは「この子はもうすぐ家にいなくなるかもしれない」と思って、膝から崩れ落ちるほどさびしくなったそうです。
そのときは、そう遠くない将来、ぼくにもやってくるんだろうなって思います。ぼくはまたひとりぼっちになっちゃうのか、そのとき自分はどうなってしまうのか……って。
でもね、信吾さんが先日「娘が初任給で御馳走してくれた」って話してくれたんです。
そのときの表情が、こんなに幸せなことは人生にないんじゃないかっていうくらい、素敵な笑顔だったんです。
怖いけれど、幸せ。さびしいけれど、幸せ。そういうものなんでしょうね。
――奈緒さんが亡くなってからも、迷ったり悩んだりすると奈緒さんの携帯にLINEメッセージを送るとおっしゃっていました。今もそうですか?
はい、普通にLINEを送っています。10年たっても、こんなもんですよ(笑)。
でも「まだLINEしているんですよ」って、今はあっけらかんと話せるようになりました。それだけでも10年の変化を感じます。以前は言葉にするのもつらかったので。
もちろんLINEに返信はありません。でも「既読にならないから、OKってことで」と自分勝手に判断して動いています。
そうやって、心の中で相談できる人がいる……それだけでもいいなって、思えるようになりました。
(取材・文/神 素子)