とにかく息子はその場所で「ママがいない」と泣きじゃくった。それは、たった1回、そのときだけの言葉です。初めてぼくに「ママがいないさびしさ、悲しさ」を見せてくれたと思いました。
ぼくは息子を抱きしめて、いっしょに泣くことしかできなかったですね。

「あのとき、できなかったこと」を語り続ける
――清水さんはフリーアナウンサーの仕事とともに、年間100回を超える講演活動をされています。奥さまを亡くしたときの思いを率直に話されているそうですね。
妻は病気と闘いながらも、しっかり前を見て、家族3人の未来のためにがんばり続けました。あのとき自分にはもっと何かできたのではないかって、ずっとそればかり考えていたんです。
その気持ちを講演会で語ることが、いいのか悪いのかわかりません。でも、聞いてくださったかたが「今、当たり前に生きていること」のすばらしさに気づくきっかけになれば……と言うのはおこがましいんですが(笑)、いっしょに考えることができればと思って続けています。
ただ、当時を語ることでぼくは何度も自分の「あのときできなかった」ことを思い出して、言葉にしなくちゃいけない。こんなに自分の心を自分でいじめる必要があるのかな、と思ったこともあります。

――つらくても伝え続けるのはどうしてですか?
講演会が終わったあとに手紙やメールが届くことが多いんです。「実は私も……」って。言葉に出せないつらさを抱えた人って、びっくりするほどたくさんいらっしゃる。
先日も、講演会のあとに高校生の女の子がぼくのところに来て、涙をぽろぽろこぼしてこう話してくれたんです。
「私のお父さんは小学生のときに亡くなって、お母さんはものすごくがんばって働いて私を育ててくれました。誰にも言えなかったけど、私、本当はさびしかったんです」って。それでね、そのあとにこうも言ったんです。「でも私、がんばっているお母さんが、本当に大好きなんです」って。
ぼくに何かアドバイスできるわけではないんですけれど、講演会をやると、そういう「誰にも言えない思い」を共有することができるんです。
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