――放っておくわけにもいかないし、何でもやってあげるのも違う。その距離感がすごく難しい。
中川 そうですね。5年前、テレビの企画で、3日間だけ高校生として学校に通うという番組に出演したことがあったんです。そこは、芸術に特化した高校だったのですが、クラスの中に“おじいちゃん”と呼ばれている子がいて。彼はいつもニコニコしていて、誰よりもやさしい子でした。でもある日、油絵の授業なのに、鉛筆で絵を描いていて。不思議に思ったのですが、なんと声をかければいいのか迷った挙げ句、「鉛筆のタッチが繊細で素敵な線だね!」と伝えました。
しばらくして、“おじいちゃん”は私に、「小学生のときに油絵を描いていたら、いじめグループに『キモい』と言われ、絵を破られてしまったことがあって。それから描けなくなっちゃったんだ」と話してくれました。そして、「親にも話したことがなかったけれど、聞いてくれてありがとう」と……。私はあまりにショックで、うまく言葉を返せませんでした。
でも翌日学校に行くと、おじいちゃんが筆を持って、尋常じゃないスピードで油絵を仕上げていたんです。彼の中でどんな変化があったのかはわかりませんが、そのとき、はじめて私は少しだけ“隣る人”になれたのかもしれないと思えました。

卒業式の記憶を上書きして、新しい一生の思い出を
――子どもが不登校になると、親は「なんとかしなければ」と思うものだけれど、結局のところ、なんとかするのは本人なんですよね。
中川 10代の子って、一瞬で生まれ変われるブーストの力をもっていると思いませんか? 早いとか遅いとかなくて、その日がいつ来るかもわからないけれど、あるタイミングで「バン!」と180度変われる。しかもほかの誰かではなく、自分の力だけでミラクルを起こせちゃうのがすごい。大人にはなかなかない現象だと思います。
さっき話したおじいちゃんも、自分の道を見つけるための「さなぎの期間」を過ごしていて、土の中でいっぱい栄養を蓄えて、ある日突然進化しました。羽化の瞬間に立ち会えたから、すごくうれしかったし、3日間だけれど、学校生活を「もう一度」送れたことは、私にとって大きな経験になりました。
次のページへ「もう一度」卒業式をすることができたら