――そのとき、震災の情報などはどうやって入手していたのですか?
停電でテレビはつきませんし、充電バッテリーももっていなくて、買ったばかりのスマホはすぐ充電が切れました。唯一の情報源は、実家の母が「持っていきなさい」とくれたラジオだけ。でも買い置きの電池がなくて、いつ切れるかわからない。
懐中電灯などもなくて、数日前にたまたま停電があったときに買っていたランタンが一つあっただけです。
深夜になって夫が帰ってきたときには、本当に安心しました。
大きな被害はなかった。それでも毎日は苦しかった
――巨大地震を経験したものの、家も家族も無事だったのは幸いでしたね。
本当にそうです。でも、「日常」とは程遠い日々はかなり長く続きました。
ライフラインも物流も止まっているなかで、自宅避難者には支援が届かず、不便でつらい思いをしました。でも当時は「津波の被害にあった人を思えば……」と、耐えるしかないと思っていました。
でも、数年たって気づいたんです。私たちみたいな「家も家族も無事だけれど、とても不便でつらい思いをした」という人が何万人、何十万人もいたのだ、と。そして今後、大きな災害が起きたときにも、そういう人はたくさん生まれる。だったら、私にも発信できることもあるんじゃないかって。
そう思って、2016年から震災に関する本の執筆を始めました。
――それが2017年に出版された『被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40』ですね。この本でいちばんに伝えたかったことは?
私たちには、地震や津波を防ぐ力はありません。でも、震災後におきる不便やつらさは、事前の準備で防ぐことができる。備えておけば何とかなることもけっこうあるのだ、ということをお伝えしたいと思いました。
――命の危機を乗り越えたあとの生活に役立つということですね。
はい。でもその一方で、備えをすることで災害時に命の危機にある人を間接的に救うことになるということにも気づきました。
たとえば大きな被害は出ていなくても、照明が割れたり、本棚が倒れたりしてケガをする可能性はあります。当時の私のように、津波もきていないし、家も全壊していないし、火災にもあっていないけれど、ケガをしていて、手元にスマホがあれば救急車が呼べるんです。
次のページへ震災から数日間、おむつは全然買えなかった