でも同じ時間に、水の中で震えている人や、家の下敷きになっている人や、燃え移る炎から逃げている人がいるかもしれません。
だから、その人たちより安全な場所にいる人がケガをしなければ、救急車や消防車を呼べなくて困っている人のもとに1台でも多く向かわせることができるかもしれません。
災害のあとも、自宅避難できる環境が整っていれば、家が流されたり壊れたりした人たちに避難所を使ってもらえますよね。
自分の被害を減らすことが、間接的にもっと大変な人を助けることになるということを、多くの人に知ってほしいと思います。
石巻から60キロ、自転車でおむつを買いに来たパパ
――アベさんご自身は、当時何も準備していなかった?
はい。情けないことに、ラジオもないし、電池もないし、バッテリーもないし、明かりもない。水をくもうにも子ども用のバケツしかないし、車はあるけどガソリンがない。
「こんなに便利な世の中なんだから、買い置きなんてしなくていいじゃん」っていう気持ちでいたんですよね。
虫の知らせなのか、たまたま震災の数日まえに「おむつをいっぱい買っておかなくちゃ」という気持ちになって、おむつとおしりふきだけは大量に買い置きしていたんです。それは救いでした。
――震災直後、おむつなどが不足していたとニュースでも報道されましたね。
震災から数日間、おむつは全然買えなくなりました。ベビー用品店やドラッグストアの前で、赤ちゃんを抱っこしたまま右往左往する人が大勢いました。
そんなとき、おむつを大量に自転車に乗せた男性が通りかかったんです。おむつを求めていた人たちは、その自転車の人を止めて「どこで買ったんですか?」って聞いていました。するとその人は「石巻から仙台まで買いにいったんです。石巻は全部流されてしまっておむつがないから、近所の人の分まで買ってきました」って。
石巻から仙台って、片道50キロ以上ですよ。みんな思わずウルっとして、「がんばってください!」と見送っていました。
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