――たった5%ですか?
「あれもこれもと教育環境を整えているのに……」とがっかりされる人がいたかもしれませんが、私としては遺伝要因の多い少ないに関わらず、親の働きかけが一定の影響力を持ちうるという研究結果は、重要な意味があると考えています。
――どういった研究をされたのですか?
行動遺伝学において、ふたごの子どもを対象として行う研究は双生児法といわれています。双生児法とは、一卵性双生児と二卵性双生児の類似性を比較することで、その人の形質に遺伝と環境がそれぞれどの程度影響しているかを推定する方法です。
科学技術振興機構(JST)の資金で首都圏に住む双生児家庭を対象に、小学校低学年だけでも784組もの双生児家庭に参加いただいて学力への影響を調べた調査によると、子どもが親から読み聞かせをしてもらいたいと思う遺伝的傾向の影響力が0.9%に対して、親が子どもたちに読み聞かせをするという環境的働きかけの影響力が3.9%、特に一人ひとりに個別に読み聞かせをする環境的働きかけの影響力が0.3%強という結果が示され、これは子どもの遺伝的素質いかんにかかわらず、親自身の積極的な働きかけによって、4%近く学力を上げる可能性があることを意味しています。
ほかにも、親の声がけと子どもの学業成績との関係や、親の言いつけに従わせようとする場合の影響などについても調べた結果、親が与える「環境」が学力に与える影響力は遺伝が50%に対して、せいぜい5%程度と考えることができました。
ちなみに、なぜ教育環境として「読み聞かせ」や声かけなどの「しつけ」のあり方を調査対象にしたかというと、塾やおけいこごとなどの学習環境を含めようとすると、そこには親の収入や学歴などの影響も関わってくるため、ここではそれらの影響を除去して調査できる項目を選んでいます。
いろんな習い事をさせるべき?
――本人の持っている素質を伸ばすには、やはり習い事などをしたほうが良いのでしょうか?
小さいころから習い事をすれば本人の遺伝的素質を早い段階で伸ばすことができる、というようなエビデンスはありません。何より、30億も存在する遺伝子のランダムな組み合わせにぴったりあった習い事や教育環境を一人一人に対して見つけるということは、理論的に不可能だと思います。素質に合う習い事や環境との出会いはほとんど偶然によるものでしょう。「いろいろさせてみて合うものがあるかどうか、子どもの様子を見る」ということを考える親御さんもいらっしゃるかもしれませんが、親が自分でできる「いろいろ」には限界があります。
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